短編

□メモワール
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追い詰められた鼠が噛んだのは、猫ではなく自らの舌でした。

鼠は弄ばれて食い殺されるよりはと、自ら死を選んだのです。
猫はそんな鼠の心意気に心動かされ、鼠を食べずに埋葬してやりました。
ちっぽけだと思っていた鼠にも不屈の精神がある。それを知った猫は深く関心し、鼠も侮れないと思いました。

それ以来、猫の鼠を見る目が変わりました。追い詰められてもなお自分達に、哀れな運命に抗おうとする様は強く気高い。ただの食糧としか見ていなかった鼠も、なかなかやるものだとしみじみ思うようになりました。

窮鼠、猫を噛む。
鼠が実際に噛んだのは舌でしたが、猫は自分たちの浅はかな心に歯を立てられた思いでしたとさ。





「素敵なお話ですね」


その少女を始めて見た時、背筋に電流が走った。髪はブロンドだったが、顔が似ていた。
彼女より随分幼いフランス美人は優しく微笑みながら俺を見つめた。

「キュウソ、ネコをカムって、そんな由来があったんですね」

俺が作ったでたらめの話を、この少女は馬鹿みたいに信じていた。
そう。彼女そっくりの、その顔で笑いながら。







  * メモワール *






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