短編
□裏ノ裏
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朝が来れば太陽を恨み、夜が来れば闇を恐れた。
毎日同じ事を繰り返しながら廻る世界が嫌いだった。それでもただ生きていくしかない自分も大嫌いだった。
どこかで終わらせなくてはならないのに、終わりが、見えなかった。
裏ノ裏
奴の手首に傷が増えていた。
昨夜見た時にはなかったはずだ。この野郎また切りやがったな。右目だけで睨むと、奴は困ったように笑いながらそれを隠した。
「えへへ。また、やっちゃった」
その顔は笑っていたが、泣いている様にも見えた。
「大丈夫。今日のは浅いから、すぐ治るよ」
奴の言う通り、その傷は浅いらしい。何時もより幾分線が薄いのは遠目にもわかる。しかし問題はその数だ。それはさながらトリニティアロー。1本なら目立たないというのに、本当に奴は懲りないと思う。
「大丈夫だよ、ライブはちゃんと出るし。長袖着ればわかんないよ」
「そういう問題じゃない」
言いながらも内心は冷や冷やしていた。奴が仕事を辞め収入がなくなれば、俺は生きていけない。
いつからこうなってしまったのだろう。今の俺は、ただの寄生虫だ。人様の金で飯を食い、人様の家に何年も住み着いている。それが良くないことなのはわかっている。それでも、どうしても外に出ることが出来なかった。
「マサムネ君?」
今はヴィジュアルメイクの仮面がない。攻撃的な視線も、挑発的な唇も。
あるのは傷だらけの手首と、縋るような眼だけだ。
その眼が俺をここに繋ぎ止めている気がした。心のどこかで、それが嘘であることを知っていながら。
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