短編
□bone,
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「ねぇねぇお兄さん寄ってって。今ならいい子たくさんいるよー?」
深夜。25時。
揺れるネオンは華やかで。
「あ!君、君だよ、お姉さん!可愛いねぇ、ウチで働かない?」
花街は今夜も眠ることを知らない。
男も女も、みんな入り乱れて一晩を遊ぶ。
「君なら絶対トップに……あ、待ってよ。お話しよーよー」
合法も非合法もない。
ここは広すぎる。誰もこの街を取り締まるなんてとても出来ない。
「え、あなた彼氏さん?いや、待って、ごめんなさい。うっそ、マジ…」
暴力と金と欲望が詰まった街で生きるのは、難しそうに見えてそうじゃない。
ただ、流れに身を任せればいい。
罪悪も快楽も、大差ない。流れに飲まれてしまえばその中で出来ることをすればいいだけ。いずれ慣れて、濁流すら難無く泳げる。
「…クソ、男いるならこんなとこ来るな馬鹿女……あ!そこのお姉さん、今お時間大丈夫?」
この街は腐ってる。
そう嗤ったけれど、苦しくなるばかりだった。
私も妹もその腐敗した世界を薄汚く生きてきたんだ。妹は溺れ死んでしまったけど、私はさらに深いところで泳ぐようになった。
いつどこで死のうとも、おかしくはないんだ。
「ねぇ、あなただよ。金の髪の」
顔をあげると目の前に腰を屈めて私を覗き込むピエロがいた。
「お姉さんお時間いいかなぁ?ちょっとお話しない?」
背が高く痩せたそのピエロは目深に帽子を被っている。
派手な衣装とメイクは人目を引くはずだが、この街ではそうでもないらしい。誰もこの場違いなピエロに、目を留めはしなかった。
明るい道化に苛々し、深く息を付く。
「客引きなら他を当たって頂戴。私は」
「妹さんの骨を引き取りに来た」
ピエロが笑う。
「そうでしょ、ハンドルネーム『Honey』さん?Mr.KKから話は聞いてるよ」
帽子を取り、ピエロは深々と頭を下げた。
焼け付くような真っ赤な髪が、ネオンを透かして光る。
「こんばんは、ハンドルネーム『Honey』さん。ワケアリ死体の処理ならお任せ、葬送サーカス団。案内役のペロと申します」
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