短編
□addict,
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私は溜息を着いた。
気付いたら何も持っていなかった自分に、呆れていた。
どこで間違えたのだろう。何がいけなかったのだろう。
考えても答えは出ないが、気休めぐらいにはなった。
「っ…ぁ、にいさん…」
歌姫の声は掠れていた。
けれどそれは聞き間違うこともない、紫の声。
「あぁ…紫ちゃん……よかった、気分はどう?」
「えェ、だいじょうぶ、ヨ」
大丈夫そうには見えねぇよ。後ろで小さくKKが呟いた。
紫はそれでようやく目の焦点が合ってきた。
「あ、あぁにいさん、けェ……」
一瞬、恍惚とも悦楽とも取れる表情を浮かべたが、すぐにそれは崩れ、涙を零した。
「あぁぁぁあ………ッ」
「紫?」
「にィさん…もう、駄目よ…」
紫はさめざめと泣いた。
頭を振る度に、痛みきった髪が顔にかかっては解ける。身を屈めて泣き腫らす姿は、昔に比べてひどく脆いものになっていた。
「オイ、紫?」
先に異変に気付いたのはKKだった。両手を見つめ、わなわなと体を震わせる様子は、尋常ではない。
渇いて、ひび割れた唇が微かに動いている。言葉を吐いていることは分かるが、それが何なのかまでは聞き取れない。
「ころして」
突如、はっきりとした言葉が聞こえた。
すると今度は先ほどより確かな声が響く。
「殺して、殺して殺して殺して殺して」
声は止まず、ただその言葉だけが私の脳内に降り積もる。
「殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して」
狂ったように同じ言葉を繰り返す紫を前に、私は唖然として固まってしまった。
「紫……」
KKが、諦めた声を出した。
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