短編

□『ダークネス』
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1.闇



「貴方、私が見えているのでしょう?」

そう問い掛けた私を見据えたまま、黒縁眼鏡の少年は小さく「あぁ」とだけ呟きました。





私が出会った黒縁眼鏡の少年は、所謂「見える人」でした。
異界の者を呼び寄せ、会話する。世界各地にいる霊能力者の中でも、自らの力をここまで自覚した存在は珍しいものでした。

彼はそんな自分の力を嫌っていましたが、私は寧ろ好いていました。
その少年の陰欝で闇を振り撒く性質に惹かれたのかもしれません。とにかく、少年にこの力があってよかったと思っていました。


私は他の浮遊霊と共に、彼の周りをうろつくようになりました。
ニホンというのは面白い。彼の生活は私にとって新鮮で眩しすぎた。
目が眩むような思いをしながら、私は毎日のように異文化を貧りました。





そんな、ある日。


「お前、もう俺の所へ来るな」

少年は唐突に私を拒絶しました。
焦りました。
一体どうしたのか。側にいることが迷惑だったのか。幽霊と話すことに嫌気がさしたのか。何故突然こんなことを言い出したのか。



「このままだと、飲まれるぞ」


飲まれる?
何に?






それ以来、私は彼に近づいていません。
数年前に中学へと進学したらしく、今では学生服もすっかり馴染んでいるそうです。


今になって思ったのですが……あの頃彼の回りを一緒に飛び回っていた幽霊たちは、どこへ消えたのでしょう。
彼の言うように、飲まれてしまったのでしょうか。



そうかもしれません。

彼から離れて初めて気付いたのです。
彼のすぐ足元に、ぽっかりと口を開ける闇色の穴があることに。
あれが何なのかはわかりませんが、あの中に入ったら出てこられないということが、妙に確信できました。
もし、私があのまま彼の側に居続けたら。或いは、私も……。








鳴呼、あの心地よいほどの闇を纏った少年は。
今はどうしているでしょう。

誘うように口を開けた、深い深い闇の穴の中に飲まれていないことだけを、私は静かに祈るばかりです。





   … End


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