短編
□『ダークネス』
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3.黒
偉大なるウィッチクイーンの妹君は黒がお好きでした。
姉のロキ嬢と、いつだって対極に在りたいのだと笑ったのを覚えています。
「お久しぶりですね。クロックス=ロキ=ダーティ」
「クロックでいい。ウィッチクイーン、ロキの名は姉のものだ」
彼女はキスをしようと取った右手を払いのけて長く煙を吐いた。
蠱惑的な香りの煙草。
これが男を虜にしてしまうという魔法だろうか。鼻孔に広がる香りに苦しくなった。
「で、何の様だ?あの土人形のことか?」
口角を上げた嘲るような顔。これはロキにはない表情でした。
その笑みは私の嫌いなものでしたが、それを隠して返答します。
「…私はただ、今晩のリデルのティーパーティーに誘いにきただけです」
「ほう?」
「ロキ嬢が、是非貴女を誘ってはどうかと私を遣わせました」
それを聞くなりクロックは声高く笑い出しました。
心底愉快そうに。大気がそれに共鳴し風が吹き乱れた。
「姉が、私を誘うとは!貴様何も知らんのだな!よいか仮面よ、姉は私をパーティーに呼ぶ気などさらさらないのだ」
「と、言いますと?」
「わからぬか?」
風がやんだ。
代わりに、またあの香しい煙が漂ってきた。
「姉が私を誘うのは、私に来てはならぬと忠告しているのだ」
「…はい?」
「逆なのだ。姉が行くなら私は行かぬ。私が行くなら姉は行かぬ。対極なのだ、我ら双子は」
クロックはまたあの私の嫌いな笑みを浮かべました。
ですが、彼女があまりにも楽しそうなので、私はただ黙っていました。
「白き姉は偉大なるウイッチクイーン。黒き私は堕ちた闇魔導師。だから私は黒が好きなのだよ」
彼女の声に合わせて、また風が吹き始めた。
… End
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