短編

□『ダークネス』
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4.無知



白い羽根。
柔らかな笑顔。
それらは一点の汚れすらも知らないようでした。


「ジズさんジズさんこんにちは!」

お久しぶりです、と頭を下げる彼女は天使です。
名前はポエット。
明るく朗らかで、ちょっと世間知らずな少女でした。

「ご機嫌よう。今日はどちらへお出かけですか」

「はい!今日はユーリのお城に行くんです。アッシュがケーキを作ってくれるって!」

屈託のない笑顔で彼女は語ります。
暗闇も、嘘も、悪意も、鮮血も、狂気も。何も知らない彼女を、私は羨んでいました。いえ、ある種の妬みであったかもしれません。
私には、こんな無垢な時代などなかったのたから。


「よかったらジズさんも一緒に行きませんか?」

「よろしいのですか?」

「はい!みんな一緒のほうが楽しいです」

あぁ。哀れな天使。
知らないとは罪な事だ。



「何をしている」

ばさりと羽音を纏って彼は舞い降りた。
漆黒の服。青白い顔。
吸血鬼だ。


「ユーリ!」

おやおや。
正義の邪魔者が。


「やぁユーリ。ご機嫌よう」

微笑む私を一睨みして吸血鬼は彼女の手を引き寄せます。
まるで私から遠ざけようというように。無垢な彼女を汚れから守ろうとするように。


「行くぞ、ポエット」

「あ、はい。じゃあジズさんも…」

「ジズは急用があるのだ。そうだったな、ジズ?」

美しい赤い瞳が私を映す。
全く、敵いませんよ貴方には。


「えぇ、実はリデルに呼ばれていましてね。もう行かなくては」

「そうだったんですか…じゃあまた今度、次は一緒に行きましょうね!」

小さな天使は手を降りながら飛び立ちましたが吸血鬼は後を追わず、私が立ち去るのをじっと見ていました。




ユーリは知っているようです。
私の持つ暗い影が、いずれ彼女の心を喰いつぶしてしまうことを。

しかし、彼女はそれを知らない。
意図的に彼女を染めようとしているなんて、夢にも思いやしない。




      … End


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