短編
□哲学者の甘美なる憂鬱
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血生臭い気がした。
今までにどれだけの音楽を、人を喰らったのだろうか。
「雨が降るのが当たり前で仕方のないことと同じように、私が音楽を喰らうのも仕方がないこと……」
目の前で揺らぐ瞳は沼のように暗い。
ぱっくりと開いた口は今にも自分を飲み込みそうに見えた。
「アルビレオ」
恐ろしい男だ。
その優しい声を発している口は人肉を喰らう。
「私は、貴方が好きですよ?」
いずれ彼は自分にも牙を立てる。
生き血を啜り、はらわたを噛み裂く。
「…わた、しは。貴方が大嫌いです」
「ですよねぇ!」
わかっていますよ。
絞り出すような苦い声に対して、テント=カントはからからと笑った。
… End
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