短編

□緋色、蒼き海に沈む
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僕は今、海沿いのマンションで一人暮らしをしてる。
実家は両親の住むハワイにある。僕はここが気に入ったから残らせてもらっているが、正直波はハワイの方が好きだった。

じっとりと漂う磯の香り。
ダークブルーの深い海は底無し沼のように僕を待っている。
僕はいずれあれに飲まれて死にたいと思っていた。
あれはこの国独特の、ハワイにはない深い世界のように思えたから。長い間悪意と歴史を喰い続けると、美しい海もああなるのだと信じていた。


深い世界。
泡が弾け、水が動くだけの無音の世界。
僕は、そこでナカジと心中したかった。








「ねぇナカジ、心中しようよ」


それを彼に告げたのは一週間前。今日と同じ、焼けるような日だった。


「僕、ナカジの事好きなんだよ。あ、そんな軽蔑の目で見ないでよ。そうじゃないよ。付き合いたいとかそういう意味じゃなくて。精神的な愛っていうかさぁ。うまく言えないけれど」

下手な説明を聞き飽きたのか彼は目を伏せた。
それに対して弁解しようとしたけれど聞いてもらえなかった。
彼は、何時もの嘲笑的な笑みを浮かべて(ただし瞳には深い哀しみの色を浮かべて)、有難うとだけ言った。

真っ直ぐ見た彼の顔はひどく白かった。
真夏なのにしっかり着込んでいるせいか日焼けとは無縁のようだ。
だけど僕は知っている。その服の下に何が隠されているのか。


「心中は出来ない。だから無理心中にしてくれ」

深い海の色をした瞳の下に、隈が出来ている。電話がうるさくて眠れなかったのだろうか。

「俺は、もう疲れた……」


ケータイが鳴った。
相手がわかりきった電話だ。
迷う事なく、彼はケータイを海へ放り投げた。


「…いいの?」

「いいさ。それより早くいこう。海が、綺麗だ」






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