短編

□裏ノ裏
2ページ/5ページ

 
マサムネ君が黙り込み、僕は急に怖くなった。
もしかして欝陶しいと思われたんじゃないだろうか。もう要らないと思われたんじゃないだろうか。

マサムネ君は僕がまた手首を切ったのを怒ってる。変に話し掛けたらさらに気を悪くしてしまう。そしたら僕は一人ぼっちだ。この部屋で、この世界で一人ぼっち。僕はそれを、何より恐れていた。


「何だよ。人の事じろじろ見やがって」

僕は慌てて目を逸らす。
あぁどうしよう怒ってる。またあの抗えない感情が沸いて来る。線を引く事に救われる気がする、あの愚かな熱情が。
脈打つ心臓に合わせて静かに傷口が疼く。切りたい。切れば全部なくなる。切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい。

「キビ!」

突然両肩を掴まれた。
彼の視線は普通の人の半分なのに、他の誰より鋭い。その眼が怖くて、綺麗で。僕はいつも抵抗を忘れてしまう。

「手」

手。
僕はようやく自分で傷痕を握り絞めていた事に気付いた。
指先にじわじわと熱が戻ってくる。鬱血から解放された左手はまだ強張っていた。
マサムネ君は呆れたように手を離し、また目を逸らした。




共依存。
以前テレビかなにかで見た言葉が頭を回る。
きっとマサムネ君だってわかっているはずだ。僕はマサムネ君に生活を提供し、マサムネ君は僕に絶対的な存在を提供している。
これがよくないことなのかもしれないのは薄々感付いてはいるが、その関係を断ち切る勇気はどこにもなかった。

もし僕とマサムネ君を足して2で割れたらきっと全てがうまくいくのに。
もし。足して、2で割れたら。



+
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ