短編
□裏ノ裏
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ある日、珍しくマサムネ君が外に出たいと言い出した。
たまにはバーベキューがやりたいから炭を買に行こう。
僕は二つ返事で買い物に付き合ったけど、マサムネ君は本当に不器用で嘘が下手だ。僕が指摘するまで肉も野菜も買おうとしなかったのに、炭と七輪だけはしっかりと手にしている。分かりやすいことこの上ない。
だけどようやく決心してくれたと思うと嬉しかった。
マサムネ君は僕を殺す気だ。
そして僕が死ねばマサムネ君も生きていけない。
僕はやっと心中できることに安堵していた。
「殺してあげる」のが優しさなんだろうか。
世間的には答えは、否。
決して許される決断ではないと思う。
それでも、互いに離れられない愚かなふたりを。
他者に寄生することでしか生きられない哀れな君を。
他者に依存し、依存されることでしか存在を見いだせないちっぽけな僕を。
死というかたちで無かったことにできるなら。
僕らにとっては、それが救いに。
「キビ」
静かな声。
いよいよかと思う。これで、僕の道化も終わるんだ。
あとは密室をつくってそこにふたりで閉じ籠もるだけ。簡単だ。きっと。
炭を内輪で扇ぐ音だけが響く。
「キビ!」
「わかってる。いま、行く」
「わかってねぇだろ。肉、冷蔵庫入れとけよ」
面食らった。
肉?一瞬何のことだかわからなかった。
マサムネ君はひたすら炭を扇ぎ続けている。
「出しっぱなしにしとくと駄目になるだろ」
「え、うん。わかった…」
最期の晩餐でもするつもりだろうか。
言われるままに肉を冷蔵庫に運ぼうとする。そのとき、ぽつりと言葉が落ちた。
「俺、もういいかげん働くから。だからお前も切るのやめろ」
聞き違いかと思った。だけどそうじゃなかった。
マサムネ君は嘘なんか吐かないし、冗談なんか言えない。そんな彼だから社会に馴染めずこうなってしまった。
そんな、彼が。
「…そうだね」
その道を選ぶなら。
今はまだ頼らせてほしいけれど、それを許してくれるなら。
「ところでマサムネ君。その炭、火付けた?」
「は?これ火ィつけねぇといけないやつ?」
「いけないやつも何も、炭は火を付けてから扇がないと」
今はまだ、足してようやく1人前のままでも。
いつかは。
… end?