短編
□bone,
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薄暗い店内を、ピエロは迷う事なく進んで行く。
その店は一見単なる見世物小屋の様だったが、一歩店の奥に入ると全くの別世界だった。
階段を下り、カーテンをくぐる。濃密な香を焚いているらしく、頭がくらくらする。
わかるのはここが一般客には秘密の地下施設だということ。このまま連れていかれて殺されても、きっと誰も気付かないだろうと思った。
「怖くないの?」
足を止めないまま、ピエロが聞いた。
「ここに来た人はみんな不安になって騒ぐんだけど」
「怖くはないわね。ここはKKの紹介だもの。きちんと手続きさえすれば、理不尽な目には合わないでしょう」
妹が死んで、もう一ヶ月。
この一月の間に、私は今まで以上に何でもやるようになった。
騙し方を覚え、銃の扱いを覚え、殺し方を覚えて。食べるために、生きるために。KKが用意した舞台で、KKが望むように醜く生きつづける。
紫への贖罪のために生きているはずが、いつの間にかKKへのそれにすりかわっていた。それも仕方ない。KKは、紫を『殺した』私を恨んでいるのだから。
「Mr.KKが嘘を付いてるとは思わないの?」
「思わないわ。私を陥れる利点が、KKにはないもの」
そう。彼の望みは私が生き延びること。私が危険な世界で薄汚れながら生きて、いずれ不様に死ぬこと。今殺すには、些か早過ぎる。
「ここだよ」
ピエロは優雅な手つきでドアを開き私を中へと誘う。
「どうぞ、ハンドルネーム『Honey』さん」
「…いちいちハンドルネームなんて言わなくていいわよ。私の名前は、それ1つだけなんだから」
妹が死んだ今、私の本当の名前を呼ぶ人なんて、いないのだから。
「では、どうぞハニーさん。奥で、妹さんがお待ちです」
此処からは一人で行けということらしい。ピエロは、静かに扉を閉めた。
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