伯爵と妖精
□寝言
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ふと目が覚めた。隣に目をやるとリディアはぐっすり眠っている。起こさないようそっと髪をなでる。
「ぅ〜ん」
リディアが身動ぎする。起こしたかなと手を止めたが、どうやらリディアは夢の中のようだった。
「クスッ。どんな夢を見ているのかな」
「レィ・ン・・・愛してるゎ」
「えっ!!」
いっ今なんて??
レイブン愛してるって言った!?
エドガーは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
いやっ落ち着けエドガー。そもそも夢だ。夢なんてものは何の脈絡もなければ何の意味もない。
エドガーが必死に自分を落ち着かせようと思考をグルグル巡らせていると、リディアが軽く身動ぎした。
「エドガー?」
まだ覚めきっていない頭でリディアが問いかけてきた。
「おはよう。僕の妖精」
そういって微笑むとリディアは少し恥ずかしそうにおはよう、と微笑んだ。
こんな初なリディアがレイブンのこと愛しているだなんて、所詮は夢。僕も疑うなんてどうかしてるな。
コンコン
主の起きた気配を感じたのかドアがノックされた。
「入っていいよ。」
エドガーが声をかけるとレイブンが部屋に入ってきた。
「失礼します。エドガー様。朝食の用意が出来ています。リディアさんもご一緒に朝食をとられますか?」
「えぇ、そうするわ。ありがとう、レイブン」
リディアは元々朝は早い方だが、エドガーと結婚してからというものエドガーの体力についていけず寝坊することがあるのだ。
「いえ、では失礼します」
そういってレイブンはいつも通りの無表情で出ていった。
夢でもあんまりいい気はしないな
しかしエドガーは自分が思い描いた最悪の結末がどうやら杞憂に終わることに胸を撫で下ろした。
「エドガー、いきましょ」
「あぁ、行こうか・・・あっ、しまったな。」
エドガーは昨日トムキンスと交わした会話を思い出した。
『エドガー様。この資料を明日の朝でもいいので目を通しておいて下さい。』
『あぁ、分かったよ。書斎に置いておいてくれる?』
『かしこまりました。』
「書斎に寄ってから行くから先に行っててくれる?」
「そぉ?じゃぁ先にいってみんなのお手伝いしてるわね」
そういってリディアは部屋をでていった。
廊下に漂う焼きたてのパンの香りに誘われて、少しだけ浮かれ気分で角を曲がると急に現れた人影に思わずバランスを崩してしまった。
「きゃぁっっ」
「リディアさん!!」
後ろに倒れそうだったのをレイブンに腕を引かれなんとか転ばすに済んだのだが
「あっっ!!」
レイブンの動きに体がついていけず足がつりそうになってしまった。
「ごめんなさい、レイブン。」
「いえ。それではわたしはこれで。」
「ちょっと待って!!レイブン。足がつりそうなの。うっ動かないで。お願い、もう少しだけこのままでいて。」
「いえ、直にエドガー様も来られます。私はリディア様に3秒以上さわってはいけないといわれています」
そうだった。しかしリディアもこんなことで朝っぱらから苦しみたくはない。少しの間肩を貸してくれればその痛みを味あわず済むのだ。
「お願い!レイブン。行かないで!!」
「・・・リディア??」
「「エっエドガー」様」
トムキンスの仕事を片付けエドガーは食堂に向かっていた。
「〜!!・・・。」
リディアと・・・レイブン??2人の話し声が聞こえてきた。
「お願い!レイブン。行かないで!!」
リディアの悲痛な声が聞こえ急いで角を曲がると、リディアがレイブンに抱きついていた。
「・・・リディア??」
思っていたより低い声が出ていた。リディアは驚いたような怯えたような目でこちらを見る。レイブンも柄にもなく焦っているように見えた。
『2人ともなんでそんな目で僕を見るんだ!』
頭に一気に血がのぼりそれと同時にリディアをレイブンの腕から奪おうとしていた。
「いたー−ぃ!!」
リディアの腕を引っ張ったのと同時にリディアが苦痛の表情を浮かべた。
「えっ!!ごめん。リディア。そんなに痛かった」
予想外の反応にエドガーは動揺した。
リディアは何やら必死に痛みに耐えているようだった。
「・・・リディアさんは足をつっておられます。」
「えっ!?」
思わぬ展開に頭がついていかない。
「もう!!エドガー。急に引っ張らないでよ。せっかくあと少しで治りそうだったのに」痛みの退いてきたリディアがエドガーに抗議した。
「えっ、あっごめん・・・」