Novel

□愛とは何でございましょう
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その光にあてられて死んでしまいそうな程に眩しい光を、彼らは持っていたのだ。
例えばあの青いヒーロー、例えばあの赤い少女、例えばあの黄色い少年、例えばあの盲目の青年。
そういった、とても平和とは言えないような街で平和に笑っている存在がとても羨ましくて、それでもそこに近付く事はきっと自分には出来ないのだと薄ら寒いどろどろとしたものがそちらへ進む足を拒む。それはきっと自分自身でもあったのだと思う。精神的な話ではなく例えば現実でも彼らに近付こうとすると足が竦んで動かなくなるのは、きっとただひたすらに自分が拒んでいるだけなのだと、フリッピーは自覚しているのだ。

「大丈夫かい?」

そんな事を考えていた矢先に、鮮やかな青が目に映った。今日はまだ誰も助けようとはしていないのだろう、その青に血の色は付いて居ない。そんなどうでもいい事に目を向けたくなる程度には動揺していて、今すぐにも逃げ出したくなって堪らなくなったけれど、「大丈夫、です」

「どうしてですか?」
「なんだか君が、とても辛そうな顔をしていたから」

ああもう、スプレンディド。あなたときたら、何一つ分かってないんですね。
不意に浮かんだそんな嫌味は口には出さずに、大丈夫ですよ、とまた言葉を繰り返した。僕は大丈夫です。例えあなたのせいで今死にそうになっていても。……嫌な人間だと思った。自分が臆病なせいで今こうなっているというのに、その原因を他人に押し付ける。嫌な人間だ。
そのせいなのかは知らないが、何か火種を見た訳でもないのに自分の中で首を擡げ始める存在に小さく歯噛みをした。

「大丈夫ですから」

馬鹿の一つ覚えのように、あるいはおうむ返しのように同じ言葉を繰り返して心配しているのだろう彼を自分から遠ざけた。流石に、ヒーローを殺す事はしたくないのだ。それはきっと「彼」も同じだろうから。

「なあ」

誰もいない、それでも確実に誰かの気配がする空間に向かって語りかけた。「あの人は、お前の事を心配してたんだよ」ひどく淀んだ目をしている事は自覚している。少し前に彼に言われたのだ。「お前は死人みてえな目をしてるな」だなんて。馬鹿みたいだ。死人も何も、僕はとっくに死んでいるのに。
問い掛けに返事はない。あの優しいヒーローは、少し前まで存在しなかったものにまでその優しさを向けるのだ。こんな、ふてぶてしくて嫌味たらしい存在にまで。自分が心配されなかったからと言って拗ねる程子供ではなかったはずだ。

「本当ならその役目は、僕のものなのに」

思わず自分の首に手を添えた。ああそうだ、僕はあの人に嫉妬していたんだ。僕を心配する振りをしながら彼を心配して、それで僕が答えたらひどく動揺して。そんなにあいつを気にかけるくらいなら、別の奴でも助けに行けばいいのに。
ぎりり、と、自分の首を絞める手に力が入った。ああもう、普段はすぐに死んでしまう癖に、どうしてこういう時だけ死ねないんだろう。

「さようなら」

さようならヒーロー。さようならフレイキー。こんな僕を、あんな彼を心配してくれてありがとうございました。
最期にそんな言葉を呟いて、ゆっくりと意識は沈んで行った。どうせ明日になれば目覚めるのにと、そんな嘲笑は聞かなかったことにしよう。




20120822

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