Novel

□許される
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朝起きて、美味しくないご飯を食べて、意味も無く散歩に出かけて、ただぼんやりとベンチに座って公園で遊ぶ子供たちを眺めて。
そうしていて、気付いたら意識がなくなっていた。
目覚めた時には既にそこは血の海で、もう空は太陽が沈みかけている頃だった。周りに見える死体を一人一人確認して、ああまたか、とぼんやりと納得した。ナッティとカドルスとトゥーシーにフレイキー、その他、もう誰なのかすらも確認できなくなった無惨な死体たち。それらを死体にしたのが自分だと言う事も、僕はとうの昔に気付いている。要するに、僕にとっても彼らにとっても、それは何時ものことだったから。
血に濡れた手から取り落とした鈍く光るナイフ。怒りも悲しみも何も沸き起こる事が無くただそれを見つめてばかりいたら、いつの間にか誰かが隣にいる気配がした。
誰だろう。スプレンディドさんだろうか。いつもみたいに説教をされるのは嫌だなあ。そう思ってそちらの方向を見れば、そこに見える自分と同じ顔をした、けれど自分とは全く違うと分かる青年。
――ああ、なんて奇跡だろうか!

「きみは、」
「よお、フリッピー」

ひどく無感情そうな声をしてそう言い放った彼には、きっと僕の表情などろくに見えてはいないのだろう。行き場の無い目をひたすらに泳がせる彼が、僕はいつだってひどく愛しいのだ。その金の目が、僕と同じ顔が、僕と同じ声が、その全てが、大嫌いな筈の自分のものだって、彼だから愛しくなるのだと。だからこそ、僕はこんなにも、君に触れられる事に喜んでいる!

「ねえ、フリッピーくん」

彼は返事をしない。いつもそうだ。彼は、僕が僕の名前を呼んでも絶対に反応してくれない。そっとその手を取れば、びくり、と震える身体。その目に映る血塗れの僕がまるで気が違った様な顔をしているだなんて、そんな事はどうだって良いのだ。「ねえ、」もう一度。ゆっくりと呼び掛ける。彼がはっとしたようにまた僕を見る。

「愛してるよ!」

だからもっと触れたいんだ、なんて陳腐な台詞。
そういえば。ふと今日の日付を思い出す。
矢っ張り彼が僕に出会えたのは、神様が聖なる夜に与えてくれた奇跡なのかもしれない、と彼の目に映る僕を眺めながら考えもしたけれど、結局のところ僕は理由など何だって良い。
要するに、彼が僕のそばに来てくれたという、その事実だけが重要なのだ。



20121230/浮かぶ警鐘

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