Novel

□自己中心賛歌
1ページ/1ページ

!軍覚?


臭いものには蓋をしてやり過ごすのが一番、とはよく言ったもので、結果的に血の臭いしかさせない俺はここ最近ずっと蓋をして、つまり押し込められて過ごしている。
身体がないというのは不便なものだ。こう言う時に無理矢理暴れて出させる事もできず、ただ暗い中で出てこいと言われて蓋が開けられるのを待っていることしかできない。まあきっと、身体があろうがなかろうが、俺はあいつにはそれこそ死んでも勝つことなど出来ないのだろうけれど。
理由はどんな馬鹿でも絶対に分かるような簡単な事。もともとの身体の持ち主であるあいつに、派生して生まれてしまっただけの人格である俺が勝てる訳が無い。
例えるならば「漫画の主人公が絶対に負けない法則」だ。まあ、たとえ間違ったってあいつも俺も主人公なんて柄では絶対に無いが。
何故か自分の姿だけ浮かんで見える真っ暗闇の中。足元にある床のような場所は冷たい。

(―――が、――で、)

奴は俺が眠っているとでも思っているのだろうか。閉じ込めたのは自分だというのに、まるで自分は関係無いとばかりに必死に俺に語りかけてくる。それはもう、馬鹿なんじゃないかという疑念を通り越してこいつは馬鹿だという確信を持たせる位には何回も。
ああもう、本当に馬鹿なんだな、お前。そんなに何回も話し掛けられても、俺には何も聞こえないんだって。そうしたのはお前なんだから。

(―――る、)

自分を馬鹿にした言葉も血に濡て真っ赤な顔も見えないようにして奥の奥に閉じ込めて見えなかった振りをして、それでまた話を聞いてくれだなんて虫が良すぎる話だ。しかもその内容ときたら、本当に吐き気がする位下らない事だから仕方がない。そういう事はまずその嫌な笑顔を止めてから言いやがれ。それでも、当然の如く此方の声も向こうには聞こえていないのだからそんな言葉も届く事はない。例え届いたとしても、あいつはきっとへらへら笑って受け流すに決まっているのだ。自分に都合の悪い事が聞こえないとは、なんと便利な耳だろう。しかもそれを言っているのが他ならぬ自分自身だとしても容赦なく拒絶するだなんて、とんでもなく便利な構造をしてやがる。

「くたばっちまえ、」

そんなお前の中にいる俺もお前も、今すぐに死んでしまえばきっと、お前の大好きな皆とやらも死なないで済むんだから。
何も見えない真っ黒な空間が僅かに震える。もしかしたら聞こえたのだろうか。それなら、あいつが今すぐに死んでくれるいいきっかけになるかもしれない。どうせ、あの街ではすぐに生き返って仕舞うのだけれど。
それを思い出して更に気分が悪くなる。結局あいつも俺も、いつまで経っても抜け出せないままなのだ。
もしかしたら、ちゃんと死ぬよりも面倒くさいかもしれない。殺してやる、と言いたくても、自分で自分自身を殺す事など出来ないのだ。

「……殺されちまえ」

お前がいつも好き好き言ってるあの赤毛に。お前がいつも仲良くしてる糞ヒーローに。
願いとも言えない拙い言葉は、どう頑張ったって届かない。
「本当に、死んじまえ」そうやって今日も、届かない言葉を敵わない相手に向けて放ち続ける俺が本当の馬鹿だと言う事なんかは、お前に言われなくても知ってるんだよ。フリッピー。

「――…そうだ、お前もちゃんと、俺自身だったんだな」


アイなんていらない
( 本当に可笑しいのは、 )






20120115

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ