Novel

□巡る、
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※覚英らしきもの




「フリッピーくん、」

「俺」にしがみ付いてただひたすらあいつの名前を呼び続けるこの似非ヒーローを、何度殺そうと思ったのか知れない。
所々に小さな嗚咽を混ぜながらも、名前を呼ぶことを止めないスプレンディドは、俺から見ても酷く滑稽な姿をしていた。
こいつが何度あいつの名前を呼ぼうが、何度あいつに会いたいと言って泣こうが、ここが血の海である限りは出て来やしないのに。
それを分かっていてここから動こうとしないのなら、こいつも俺も相当な馬鹿野
郎だ。

「フリッピーくん、フリッピーくん、」

それが自分を指している訳ではない事は知っているし、返事なんてする気もなかったからただ黙ってこのくそヒーローの声を聞いていると、それまでただ俯いてあいつの名前を呼ぶことしかしていなかった奴の青いその目が、急に俺のことを捉えた。

「かくせい、くん、」

ずっと泣いていたせいで目は腫れているし、涙だってまだ止まってなかったから酷い顔だったし、声だってお世辞にも綺麗とは言えなかったが、
確かにその時、こいつは俺の事を呼んだのだ。

「……何だよ、」

俺がそう答えると、スプレンディドは安心したような、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて言う。

「あいしてる、」

そして、そんな事はとんでもない嘘だと分かってはいても、俺はまたこいつの一言に踊らされるのだ。



堂々巡り。
(もう一回、また一回。)




20110729

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