Novel

□「もしかして、」
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!スプトゥシ

幼い頃から、ヒーローという物が大好きだった。
それは例えば良く読む漫画の主人公だったり、子供向けの映画に出て来て悪い怪獣や怪人を次々に倒していく正義の味方だったり、とにかく「ヒーロー」という存在そのものに憧れを抱いていたのだろう。
成長したらそうでもなくなるのかと思いはしたけど、昔より少し大人に近付いた今でもあまり変わらないのだから、自分はきっと一生このままなのかもしれない。

「あっ、ヒーローだ!」
「え、」

そんな、普段あまり考えないような事をぼんやりと考えながら散歩していたら、
不意に一緒に居たカドルスが後ろを指差してそんな事を言うから、反射的にそち
らの方向を振り返ってしまった。
そこに見つけた青い姿に思わず駆け出した時に「トゥーシーって本当にヒーローのこと好きだよね」なんて少し呆れたようにカドルスが言っていたのは、そのまま彼に突進した僕には聞こえる筈もなく。

「……トゥー、シー?」

うっ、と小さくうめき声をあげてから、この年になって大人に抱き付くような僕
け、本当に少しだけ頬が緩んでしまったのは秘密として(一応僕だって男だし)、そんな彼に小さくこくり、と頷いてみせる。
そんな勿論僕のヒーロー好きは、この街で呼んだらすぐにやって来てくれる青い英雄にも同じ事な訳で、見掛けたらこうして抱き付く事は無くても話したりはす
るのだけど。

「あ、……ヒーロー、大丈、夫?」

抱き付いている僕に少しだけ苦しそうな顔をした彼を申し訳なく思いながら少し心配すると「大丈夫だよ」とまたいつも通りの笑顔を見せる。
それにつられて思わず笑顔になってしまう僕は、どれだけこの人が好きなんだよと自分で自分に少し呆れてしまった。

「どうかしたのかい?」

用事を聞かれてう、と言葉に詰まる。……そう、ヒーローは忙しいのだ。特に用も無く抱き付いたような子供の相手をできるほど暇じゃない。

「……なんでもない、けど、」

ただ、その姿を見掛けたからただ抱き付いてしまったのだと口にするのがやけに恥ずかしかった理由は、自分でも良く分からない。
そこで妙に赤面してしまった僕にもう一度柔らかく笑いかけてくれた青い瞳に、何故だかどきり、と心臓が跳ねた。
(え、なんだこれ。)
……だって、これじゃあまるで、

「トゥーシー?」
「は、はいっ!?」

大丈夫かい?なんて首を傾げて聞いてきた彼に柄にもなく敬語で返事してしまって、そしてまだ自分が抱き付いたままなのに気付いた僕が慌てて離れる様子は、きっととてもおかしなものだったのだろう。
……これじゃあ、まるで、僕が彼に恋をしているみたいじゃないか。
そんな僕に少し不思議そうな顔をしたヒーローは、また優しく微笑んで。

「大丈夫ならいいんだ、」

そんなことを言って僕の頭を撫でるものだから。
それじゃあ私はパトロールの途中だから、と言って去っていった背中と、頭を撫でた優しい手の感触が未だに忘れられない。
……ああもう、顔が熱くて、堪らない!


もしかして、のドキドキ
(どうやら僕は、恋に落ちたようです。)






20110922

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