Novel

□i
1ページ/1ページ

!覚醒と微笑


この、人殺し。
普段の自分なら絶対に言わないような罵り言葉をいつもより少しだけ大きな声で吐き出して、目の前に立つ金色の瞳を見つめた。いつも見る彼と同じ顔。でも全く違う人。「彼」の瞳に宿る狂気を孕んだ光が、何よりあの優しく微笑む緑色の彼とは別人だと嫌になる位に教えてくれる。
足元に散らばる血液や内臓達が怖くないと言えば嘘になるし、私自身気を抜けば意識を失ってしまいそうな程度には怪我を負っているのだけれど。
それでもこんな威勢の良い言葉を吐き出せたのは、やっぱり彼が私の良く知る「フリッピー」とは別人だからなのかもしれない。

「……は?」

少しだけ間を置いて返された間抜けな返事に思わず少しだけ笑みが零れる。可笑しなものだわ。この場で圧倒的に劣勢なのは私の方なのに、彼の事を憐れんでうなんて。
もしかしたら、何度も繰り返した死に際のせいでおかしくなっているのかもしれないなんて事を少しだけ思った。

「事実を言っただけよ、……この人殺し」

意図的ににこりと微笑んで、今度は痛みでほんの少し掠れた声でもう一度放った言葉に彼はこれでもかと言うほど(少なくともいままで私が見た中では一番の)殺気を含んだ目で私を見ると、そのまま何かを諦めたように軽く舌を打った。
恐らく、死に損ないの私が憎たらしくて忌々しくて堪らないのだろうと推理とも言えないような適当な推測を彼の表情から読み取る。そんなことをしても何も変わらないし、私が彼に殺される事も変わらないのだろうけれど。
そんな事を考えている内に、どこか嘲るような色を含んだ瞳で目の前の軍人は笑
う。

「……俺は人殺しだから、」

死に損ないのお前を殺してやるよ、といかにも下らないと言うように吐き捨てた彼に、いつもなら有り得ないような僅かな安堵すら覚えたのは何故だろうか。
そんな自分への嘲りも含めてもう一度笑って、沈んでいく意識に身を委ねた。

(薄れる世界に溺れる、)




20110929

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ