Novel

□まんなか
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!軍覚
!双子設定


自分と同じ顔がもう一人居ると言うのは、ここまで不快なものだったらしい。
いかにも退屈そうな無表情でナイフを弄っている片割れに柄にもなく僅かな苛立ちを覚えながら、何もかもそっくりな双子である自分達が外見上唯一違う箇所である彼の琥珀色の瞳を軽く一瞥する。――いつもは、凶暴な色を湛えている筈のその瞳を。
少し見ただけではいつもと変わらないようなその瞳が「いつも」より僅かに僅かに揺れているのに気付けるのは、やっぱり肉親だけに分かる違いと言う奴なのだろうか。
それに少しだけ優越感を感じてみたりする。……そんな事をしても意味は無いと分かっているけれど。

「……どうかしたの?」

ねえ、と呼び掛けても当然その言葉に彼が答える訳も無く、いつも通りの鋭い目で睨み付けられただけだったけれど。
それを気にもせずに彼の方を見ていても何かが変わる筈もない訳で、ただ片割れが何も変わらない無表情に戻っただけだった。

「フリッピー、」

ふと名前を呼べば向けられる殺気。これは二人で共有している名前のつもりだけど、どうやらこの片割れはあの名前が嫌いらしい(じゃあ、なんと呼べばあいつは満足してくれるんだろう)。

「……その名前で呼ぶな、」

時間差で聞こえた自分より僅かに低い声。これも自分達の数少ない決定的に違う所のひとつの筈なのに、どうやら良く間違えられる。ちゃんと見分けて欲しいと(少なくとも僕は)思っているのに。

「……覚醒、」

そう小さく呟けばぴくり、と動いた眉。返事は無い。
どうせ何をしてもこの妙に頑固な片割れが「いつもと違う」理由を話すことは無いだろうし、僕も聞き出す気はない。話さないならせめて返事くらい聞かせて貰っても良いものだけれど。
そんなことをぼんやりと考えていると、いつの間にか目の前に自分と良く似た顔が居る事に気付く。いつの間に居たんだなんてそんなことを聞く気は、勿論僕には無い。

「……ねえ、」
「何だよ」

短く返された返事に僅かに微笑む。どうやら僕が柄にもなく苛立っていたのは、彼の声が聞きたかったからなのかもしれない。
そんなの、まるで子供みたいじゃないか、と自嘲も含んだ笑みを軽く心の中で浮かべてから、そのまま小さく呟く。

「……好きだよ、」

たった一人の肉親であるお前が、唯一無二の存在である君が。
本当に大嫌いで、大好きだと。
返事は期待していないし、そもそも返事が来るとも思ってはいないけれど、これだけは言わせて欲しかったんだ。
最初に思っていた事とは随分違う結論に辿り着いたな、何て下らない事を考えてながら、自分と同じ色の髪に軽くキスをした。



( 「俺だって大嫌いだよ、」 )



20110929

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