Novel

□k
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!覚軍?


「出てこないの?」
「嫌だ」

もう何度目かも分からなくなる位には続けたそんな問答をまた一回繰り返して溜め息を一つ。全く、僕の友人は頑固にも程があると思う。
ここが何処かと言うのは正直自分でも答えが良く分からないのでその質問にはえないでおく。ところで、この扉の中で今までずっと泣いていた(泣き声が聞こえていた、)彼は、一体いつになったら出てきてくれるだろうか。

「ねえ、フリッピー」

僕は、君と話したいんだよ。
彼にはどう聞こえているのか分からないけれど、僕は確かに彼を呼んだつもりだった。それでもやっぱり、扉の向こうからの返事はずっと聞こえてこない。
別に特別期待をしていた訳ではないけど、それでもどこか残念な気持ちになった自分が居る事に気付いて少し苦笑する。そんな事をしたって、彼からの返事は来ない。

「……ねえ、」

はやく君と話したいんだよ、何て何回も使い古されたような陳腐な台詞だって、今なら、君に向かってなら言える気がするのに。
それでも、彼の返事はやっぱりないし扉が開いて姿が見えるようなことだってない。ねえ、それでも僕は確信してるんだ。いつかきっと、君の顔を、目を見て話すことができるって。
もう君がなんで僕と同じ声なのか、なんていうのもどうだってよくなるくらいには、僕は君をすきになっているんだよ。
そんな事を言ってみても彼の声は聞こえない。ここ暫くの間、何度も繰り返した
「嫌だ」、というその三文字しか喋らなかった彼を、本当にそこに存在しているのかどうか、扉の向こうにちゃんと居るのかどうかということを何度だって不安になったりもしたけど。

「すきだよ」

こんなに近くに居る筈なのに姿も見えない君が。僕が何度話し掛けても、その声をちゃんと聞かせてくれない君が。
いつもと何も変わらない決まったやり取りしかしなくても、僕は君がすきだから、君をすきになったから、だからここにいるんだよ。

「……そうかよ」

そのどこか呆れたような声は、ちゃんと注意していないと聞こえないくらい小さな声で、それでも確かに僕が聞いたことのある彼の声だったので、何故だかとても嬉しくなってしまって。少しだけ笑ってしまっても扉の向こうからは何の反応もないけれど、きっと僕は今まで聞いてきたどの言葉とも一言だけで満足だと思ったんだ。
例えそれが、否定でも肯定でもないただ受け入れるだけの言葉でも。

「……ねえ、大好きだよ、「フリッピー」。」

君がその名前は僕のものだと言っても、自分はそんな名前じゃないと言い張っても、それでも僕は、この名前しか知らないから。
君が返事を返してくれるまで、この名前を呼び続けようじゃないか。
そんな思いも含んでもう一度小さく名前を呼んだら、微かに返事をする彼の声が聞こえたような気がした。



( どっちもどっち。 )








20111020

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