Novel

□はろうぃん
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!軍(+)覚
!分裂してる


「トリックオアトリート!」

こいつは一体、何を言っているのだろう。
いい歳をしてこれでもかと言う程の笑顔でそんな事を言ってきたもうひとりの自分にそんな事を一瞬本気で考えたのは、仕方のない事だと思う。何を言われたのか、言葉の意味は分かっている。トリックオアトリート、お菓子か悪戯か。言葉自体はお決まりの文句だが、問題はそれではない。言っている人間が一番の問題だ。
いくら童顔とは言えどお世辞にも子供とは言えないようないい大人が、いかにも当然とでも言いたげな笑顔で本来子供(身体年齢が、という意味だ)が言うべき台詞を言ってきたら、それは思考が止まるのも仕方が無いと思う。……しかも、しっかり仮装までしているときた。さて、この場合こいつの半身でもある自分はどういう対応をすればいいのだろうか。

「……何やってんだよ」

思い切り呆れた顔を作って、そのまま殺すぞ、と続けたくなったのを抑えて言う。どうせこいつには幾らナイフを投げようが手榴弾を投げようがすぐに避けられてしまうのだ。そんな相手にそんな脅しは無意味だと、これまでの経験から分かっていた。
――正直、今のこいつに喧嘩を売りたくない、というか関わりたくないというのが本心ではあったが。

「何って、今日はハロウィンだろ?」

それがどうした。
思わず間髪入れずにそう言ってしまった自分は、きっと間違ってはいない。そう、今日は確かにカボチャやら何やらが街中に溢れる行事の日だ。それとその言葉の関連性は分かっても、自分には立派な成人男性が先程の行動に至る理由が全く分からない。本当に分からない。いくら普段変な行動ばかりしているとは言えど、どうしてそれがわざわざ仮装までして人の寝ている所に押し掛ける行為に繋がるのだろう。

「お菓子。」

……その短い言葉の続きは、差し出された手がこれでもかという程物語っていたわけだが。
そもそも、起きたばかりの人間がどこに菓子を隠し持っているというのだろう。
例え持っている人間がいたとしても、それは多分歳のくせにやたらと子供っぽいこいつ位のものだろう(もしかしたら、あの糞ヒーローもその位はできるかもしれない)。それはつまり、こいつは菓子を貰える期待なんかしていなかったと言うことで、要するに最初から悪戯とやらをする為に来たのだろう。――その為に、わざわざ本格的な仮装までして。
そのまま返事をしないこちらに不満げな表情を見せたあいつを思い切り睨み付けても怯える事も怒る事もなく、ただいかにも不満だと言いたげなその表情を崩さないまま起き上がろうとした俺の腕を最初と同じ笑顔で押さえつけた、……は?

「お前、」
「お菓子、持ってないんでしょ」

だったら悪戯しないと!なんてさも当然のような顔をして言われた言葉の意味が全く分からなかったのは、きっと俺だけではない。もしもこの場に他の誰かが居たら、絶対に言う。……どうしてこうなった。
今の状況を簡潔に説明していると、まあ、俺は紛れもなく自分の半身である同じ顔の男に組み敷かれているという奇妙な状況で客観的に見ればいっそ滑稽ですらあったが、当事者としてはとても呑気に笑えるような状況ではなかった。
何故かって、これが恋人同士だの友達だのそういうものなら兎も角俺達は双子にしては似すぎている同じ顔をした片割れ同士(しかも、お互い片方の事が大嫌いだ)。それで悪戯ときたらもう、選択肢は一つしかない。

「ね、早く死んでよ。」

悪戯と呼んで嫌がらせと読む。こいつは、今日一日俺に出てこさせないつもりなのだ。
振り下ろされたナイフをギリギリとも言えるタイミングで何とか避けてから、久々に一方的ではない戦闘に口角を上げた。
――…どうやら今日は、いつもよりとても楽しい日になりそうだ。



( 普通の悪戯なんかじゃ詰まらない! )



20111105
Happy Halloween!
一応テイクフリーです。

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