Novel

□if
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!)鹿覚鹿?



初めてその光景を見た時に、諦めにも近い何かを感じたのを覚えている。
沢山の死体の中に一人だけ無事で居て、しかも中心に居る無事なその人が原因だと言うならもうそれは、怒りや悲しみを通り越したものを感じるのは当然というものだ、と、この目で見るのは二度目のその光景を目の当たりにして。
何の感情も抱かずに、見慣れた死体を眺めてただそんなことを考えている自分がいた。

「ねえ、フリッピー」

それ、楽しいの?
皮肉でも何でもなく、ただ純粋な興味で言った言葉は情けないことに僅かに震えていて。
ああ、もしかしたら俺も怯えているのかもしれないなぁ、なんて他人事のように思いながら、彼の金色の瞳を覗き込む。相変わらず綺麗な色だとは思うけどそれは優しい色ではなく、そこにあるのはやっぱり凶暴で鋭い、例えるならナイフのようなその色だけだ。

「……知るかよ、そんなの」

良く考えるとどこかおかしいその言葉にすら、何故だか妙に納得してしまった自分がそれ以上言葉を発することもなく。
それだけで終わった会話に少しだけ寂しさのようなものを感じながら、そうかい、と聞こえるかどうかも分からない小さな声で軽く相槌を打ってそのまま軽く息を吐いた。





人を殺すことが楽しいか、と。
いつもと変わらない軽い調子の声で言われた筈の質問は本当に少しだけ震えていて。
嗚呼やっぱりこんな馬鹿でも自分に怯える事があるのかと、感心なのか呆れなのか分からない溜め息を吐いた。

「……知るか、」

お前だって、いつも殺してるようなもんだろうが。
言わずに飲み込んだ言葉に気付かれる事は有る筈もなく、そうかい、と言った後に一瞬だけ寂しげな目になった阿呆鹿に気付く訳もなかったのだけれど。
それでも、自分と似たような、それでも全く違う無感動な目で足元の血の海と死体を見下ろす青い青年を眺めていたら、どうしようもない虚しさのような何かが襲ってきて。

「……なあ」

気が付いたら、自分はあいつに抱き付いていたらしい。
柄でもないような、今にも泣きそうな震えた声に少しの苛立ちすら覚えながら、何も言おうとしていないあいつにぽつり、と呟いた。

「…………    」



ハッピーエンドはまだ来ない
( きっと永遠に、 )




20111209

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