Novel

□atrk
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!否英


「君は本当に馬鹿だね」

どこかで聞いたような台詞をこれまたどこかで見たような大仰な仕草で言い放った自称ヒーローは、何も言い返すことをせずにただ黙っている俺を見て、不服そうに、まるで俺には自分の気持ちが分からないとでもいうように眉を潜める。おいおい冗談言うなよ、双子ですらないのに馬鹿みたいに同じ姿をした片割れの考えてることなんて、俺には嫌ってほど分かってるんだよ。
でもまあ、考えていることが少し分かった程度で目の前の男の罵声を止められる訳でもなく。

「不器用だし、世間知らずだし」

その言葉はそっくりお前にお返しするよ、とはまあやっぱり言わないでおいた。無意味に怒らせて面倒なことになるのはごめんだ。
だからそんな不満そうな顔で言われても俺にはどうしようもない。
例えば目の前の鏡写しのような忌々しい馬鹿野郎が皆の憧れ(これを聞く度に笑いそうになる)であるヒーローを名乗っていようとも俺は絶対にそんなことはしたいとも思わないし、そもそもそんな事をしても結局は助けている「つもり」のこいつが何故だかおいしいところは全部持っていくのだから意味が無いのだ。……本当は、助けようとして毎回殺している癖に。
そんな意味も含めた視線をあいつへと送ってやれば、何を思ったのかまるでそんな事は分かっているとでも言いたげに睨み返してくるいかにも嫌そうな青色の瞳(英雄がそんな顔していいのか、とは敢えて言わないでやった)。ああそうか、分かっていても改善出来ないのがお前だったな。

「……俺から見たら、お前の方が馬鹿だけどな」

溜め息混じりにずっと言いたかった台詞を返してみる。そういう意味では、俺だってあいつとそう変わらない。いつまで経っても不器用で馬鹿なままの糞ヒーロー様(俺の場合は外見だけ)なのである。それだけは初めて出会ったあの時から寸分たりとも変わっちゃいないのだ。そしてきっとこれからも、それが変わることなんてきっとない。要するに、嫌な事にあいつと俺が思考もなにもかも違う全く別の存在になれるその日は多分永遠に来ることはないのだ。そう思うと、これでもかと言うほどに吐き気がして、それと同時にそれも悪くないんじゃないかという気分にもなってくる。――さて、これは何なんだろう。

「……いいや、お前の方が馬鹿だね、スプレンドント」
「どういうことだよ、スプレンディド」

珍しくフルネームで呼ばれた名前にこちらも嫌味ったらしく返してやれば、にっこり、と嫌になるくらい楽しそうな笑顔を向けてくる(こいつのこういう笑顔は本当に信用できない)。

「出会った時からずっと、お前はおれの気持ちに気付いてすらいないじゃないか」

馬鹿を言え、と返してみる。さっきも言ったようだが、俺はこの色違いの阿呆ヒーローのことなんて嫌になるくらい分かるのだ。そう続けようとした言葉は、先手を打って奴が続けた言葉にすっかり飲み込んでしまったのだが。

「最初からずっと、おれはお前のことが好きだったんだよ、ドント」

どうやら本当に、気付いてなかったのは俺の方らしい。きっとこいつは、その言葉に対する俺の返事さえ見抜いているのだ。

「―――馬鹿野郎」

最後の悪足掻きとばかりにもう一度だけ、これまで嫌になる程繰り返した(そしてこれからも沢山繰り返すであろう)言葉でやつを罵ってみたりもしてみる。
そこから続く言葉は絶対に言ってやらない、と、勝手に自分の中で決めてやった。



軋轢プロナウンス
( 気障な台詞なんて吐いちゃってさ、 )





20111217

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