短編

□色のない花
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「やあ、初めまして…っておいおい、そんなに驚く?」

 淡い水色の髪の青年腹を抱えながら言う。青年の前にいる、白髪で長髪の幼児は赤い目を大きく見開きながら小刻みに震えていて、青年にとってその反応は面白い以外の何物でもない。

「…ここ、どこなの?」

 幼児は辺りを見渡す。何度も見渡す。さっきまで、薬品の臭い漂う白い部屋のベッドの上で、読めないが絵だけ楽しむだけのどこかの宗教の本をうとうとしながら見ていた筈だ。
 ここも、白い。確かに真っ白ではある。だが、異様な白さだ。

 床は一面に光輝く粒子を出しながら微動だにしない茎すらも真っ白な花が咲き誇り、立った幼児の膝に触れる。
 絵本で読んだ洞窟のように壁はゴツゴツしているようであるが、薄い影が見えるだけで輪郭がはっきりしない。その壁も、遠いのか、近いのかいまいちわからない。
 白が白とわかる程明るいのだが、その光源が一体どこにあるのかも不明だ。

 その真っ白い壁を目で辿っていくと、四角い、途方もない程大きな扉があった。扉の下で座っている青年がネズミのように小さく思える程に大きい。その扉の上まで見上げると、縁に僅かな影が見えた。
 壁と同様、真っ白で気が付かなかったがあれが天井なのだろう。

「うーん、なんて説明すればいいんだろうね…」

 黄金の瞳を伏せて、青年は考える。青年は黒いマントのようなものを肩に掛けているが、その下はしわ一つない軍隊のようなキッチリとした服を着ており、少し違和感を感じる。
 よく見れば青年の頭上には金色に輝く円があった。

 それには幼児は見覚えがあった。
確か、あの宗教の本の絵にある「天使」と呼ばれる存在と同じようなものではないか。

「し、し、死んじゃったの?僕、死んじゃったの!?」
「いや、死んではいないさ。死んでたら会話出来ないでしょ?」
「死後の世界なんでしょ!?ここは天国かなにかじゃないの!?だって君、『天使』でしょ!?」
「お、よくわかったね」

 青年は左腕を横にスッと出すと、背中から鳥のような白い羽が羽ばたいた。幼児はマジックのように突然現れた羽に驚愕し、思わず尻餅をついてしまった。
 床の花が折れる音がする。言葉にならない言葉を口にしながら幼児は後退りする。

「ちょっとちょっと…そこまで引かれるとヘコんじゃうなー俺」

 青年は羽を仕舞うと、立ち上がって言った。

「ようこそ、小さな継承者様。ここは、どこにでもあってどこにもない場所。決して知覚し得ない空間。言わば超越論的意識の自己自身の置き場。個々から生まれた無を、正しき所へかえすんです」
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