短編
□色のない花
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「…?」
まるでアルビノのような幼児はキョトンとした顔で青年を見る。青年は頭を掻き、やっぱわかんないよなぁと一言呟いた。
「ここはね、君たちのような自我を持つ高度な生命体の魂を管理する場所だと思えばいいよ。君は今日、『月の記録(セレーオルフィス)』に触れたから、力が不安定になってこちらに引き寄せられてしまっただけなんだ」
「魂…?」
青年は言う。
「ほら、絵本で読んだことないかな?暗い部屋で蝋燭が灯っていて、その火が消えたら人が死ぬとかいうの」
「蝋燭?」
「まずそこからかぁ…」
青年は、溜息を吐いて腕組みをする。幼児の幼さではあまりにも知識不足で何を話しても理解はしてくれないだろう。
見た限り、まだ五歳くらいだ。たどたどしくではなく、はっきりと言葉を喋るのでそれなりの教育を受けていると思ったのだが、そうではないらしい。
しばらくして青年は覚悟を決めた目で幼児に言う。
「夢だ!」
「…はい?」
「いいかい、これは夢だ。ちょっとリアルな夢だ。君は今日、だいぶ疲れてるだろう?いつの間にか寝てしまっていたんだ」
幼児は唖然としながら言う。
「夢の中でこれは夢だって…変な話だよ。夢が夢を認めてどうするの」
「怖い怖いって言ってたら怖くなるのと一緒だよ。夢の中の俺がこれは夢だ夢だって言ってるんだから夢になるんだよ」
「…違うと思うけど」
「夢には二つ意味がある」
青年は言うと幼児は理解していない、納得のいかない顔をした。青年は続けて言う。
「じゃあ君が踏んづけて散らしたそこの花、なんだと思う?」
幼児は自分の足元や尻の下にある花を見る。白い花は、葉の全くない茎の中程からぽっきり折れていた。拾い上げてみると、花は幼児の指を少し大きくして映し出した。
白いと思っていた花は全体がガラスのように透明だった。
「それがね、人の心なんだよ」
幼児は思わずその花を投げた。