本編
□Prologue
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「………き。アーネーキ!」
「……ん?」
施設から少し離れた森の所。
木に寄りかかっているのは、一見少年に見える少女。紺の髪は顔の右半分を覆うも他は短めで肩につくかも怪しい。
白い上着は肩から外し、裏地の暗い青がはっきり分かり、右の腰には二振りの、長くはない剣を差している。
彼女、リシアース・エンデは空を仰ぐのを止め、近くにいた少年を見た。
一部、細い尻尾のように束ねている赤茶の髪に、きっちり鞘に収まった刀を左手に持つ。おろしたての青い軍学校の服に身を包んだ彼は、正真正銘、自分の弟、エルヴァン・エンデだ。
「あー、エンか。もう入学式終わったのか?」
「3時間位経つのに『 も ・ う 』なの?」
結構長かったのにさあ…とエンはぼやく
そうか。そんなに時間が経っていたのか。
と、彼女は気づいた。
「うわっ!なっなにコレ、全部死体!?」
エンはリシアの脇にあった猪が怪物化したような動かぬものを見つけ、声をあげる。
「ひどいよな…待ってただけで、よってたかって俺の所に来るんだもの」
「姉貴がやったんかい!」
まぁね、と欠伸を噛みながらリシアは言う。
「それより、エノクに戻るのってエンだけか?」
「まぁ…他はもう寮に住み込みだし」
「手続きミスってしばらく自宅通いだもんな。いやぁー首都に住んでて良かったね。毎日マラソンだもの」
「それ慰めてんの?馬鹿にしてんの?…でもなんで?」
メタトロニオス王国の首都エノク。その一般住宅街が、自分達の家があるところだ。
ここ、軍施設ヒスタからは歩いて1時間と半。走ればもっと早いだろう。多分。
魔物さえでなければ。
ガサッという、草を踏む音がする。
何かが此方に歩み寄っている証拠だ。
エンも何かに気づき、左手に持った刀に手を伸ばす。
「他に被害が出るのも嫌だしさ」
先ほどのエンの問いに答えるようにリシアは言う。
右側に差した二刀の剣を左手で引き抜き流れるように右手にパスし、もう一度左手で抜く。
「もしかして…もしかしたらこいつらの親玉とか?」
「かもな」
その直後、巨大な猪のような魔物が走りながら姿を現した。
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