本編

□黄金の聖職者
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 世界アールマティの東側に位置するヘハロト大陸。その北東のクシャスラ湾岸に接するメタトロニオス王国首都エノクは魔術の発達したこの国らしい一面が垣間見える。

 空高くそびえる城を囲むように貴族住居、商店街、一般住宅街となるように並ぶ。首都の外側は魔物から守るための城壁、さらに人工的に作り出した川が城壁の内側に流れ、三ヶ所にかけられた石橋でしか街中にはいることは出来ない。

 この人工的に作り出した川とは、自然界の水で出来た川ではない。
 魔力(ルナート)の属性構築でつくられた水属性の術がエノクの都を流動性を持って一周しているのだ。

 この世界に、自然的に魔力が存在する物質はほとんどない。
 一部の鉱石、魔力石(セレークレスタ)という宝石のように透明度が高く、様々な色を放つ石は魔力を含み、涙の神託者(オルクル)のように魔力が発生する。
 その石を人々は数十年前に再発見し、徐々に浸透している真っ最中だ。

「姉貴…また見てんの?」
「いやさ、よくこんな馬鹿でかい術を作ったよなぁ〜って思って」
「魔晶器に通してばばってやるだけでしょ?」
「なに言ってんだ、その魔晶器の制作が一番手間取るんだよ」

 魔晶器とは、メタトロニオス王国が発明した、魔力石を使って人工的に術を発動する器機のことだ。
 魔力石を見つけた人々は、なんとか人為的に、尚且つ有効的に魔力を使えないかと考え、器機による人工詠唱を石に常に打ち込んだのが魔晶器だ。
 術が大きければ大きい程、作り出すは困難になるし、制御も難しくなる。

「それに、こんくらい大きい術だと、どんな魔力石なんだって思ってさ」

 魔力石の大きさは千差万別だ。ただ、必ずしも大きければよいという訳ではない。
 魔力の純度というのがある。純度が高ければ高い程、発生する魔力も多い。

「んー…人を簡単に越える大きさで」
「純度低そうだな」
「もちろん高くて!」

 エンは猪の魔物の傷もあるのだから、空元気に頑張っているのだろう。さっきから気づけなかった自分が悪いとリシアは気付き、歩き出そうとする。

―――チリン

 ふと、どこからかベルの音がした。
 手で持って鳴らす、ハンドベルだ。

―――チリン チリン チリン

 一回と三回。
 これは聖書の朗読の合図だ。

「……どこかにオルフィス教の聖職者でもいるのかな?」

 エンが呟く。

「一般住居の広場からか?」

 今いる橋から、街中を進んだ先から聞こえたのだから、多分そうだ。憶測入りで言い返した。

 だが、その広場はこの橋からそれなりに離れている。
 人が入り交う中、ハンドベルの音が聞こえる程、近くはない。
 二人は顔を見合わせ、興味本位で広場に足を進めた。

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