本編
□魔術の都
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暗い裏路地は華やかな王都とは思えない程、浮浪人で溢れ、異臭が漂い、廃れた街を思い起こされる。
そんなスラム街の中、ハンドベルの音が一回、間を置いて三回なった。それは不思議で不自然な程に美しい音色で、頭に直接響くようであった。
それは、ここにいる薄汚い人々にも聞こえたのだろう。
動ける者は音の聞こえた方向に歩き出した。残ったのは動けず、口から唾液を流しているものや、うつ伏せているものばかりだ。
だがそこに、銀色長いの髪を揺らす者が一人。
彼は薄暗いスラム街の中で、闇を照らす銀の光のように、この場では異質で異様だった。小綺麗、とは言えないが茶の上着、右手にはめた黒いグローブに左腕にはシルバーの腕輪。
浮浪人ではない。だからと言って都民でもなければ貴族のようではない。どちらかというと―…旅人がしっくりくる。
その旅人の視線の先は、この都と国の中で最も偉大な者が住む所だ。それは空に伸びるように高く、高い。見上げる首が疲れてくる。
―――遥か昔、世界アールマティに一つの星が落ちました。
とある宗教の聖書の一節が聞こえる。
「――…とっとと終わらせるか」
銀の髪をたなびかせ、彼は歩き出した。
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