本編

□魔術の都
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 商店街は区の中で最も騒がしくて最も活気があり、最も犯罪が起こりやすいとこだ。
 なぜなら、一般住宅街と商店街の建物の間にはスラム街が形成されており、飢えに悩まされている人々は金を持たずとも食料を得るため商店街へと足を運ぶ。

 窃盗、万引き、挙げ句は殺人が連日のように起こるこの区は、いつしか軍人が警備に回ってくるようになった。それで犯罪が減ればよいのだが、一向に減る気配がない。
 その軍人は手練れた者ではなく、軍学校から卒業したばかりの新隊者だ。犯罪の対処の仕方も危うく、暴力行為に走るものや知らん顔の者もいる。

―これだから最近の若者は。

 年配者の口癖も、これなら納得出来そうだ。だが、そうした制度を作ったのも年配者だ。
 世の中の皮肉と言ったところだろうか。

「お、リシアちゃん!今から学校かい?」

 今さっき通った食料屋の店主が笑いながら呼んだ。リシアは進めていた歩を止め、振り返る。

「おっさん。もう学校の講義は終わったよ」
「あれ、おかしいな。私立はともかく、国立のお得意さんは来てないぞ。…あ、リシアちゃんはサボリ魔だったか!」
「俺の興味が引かれる講義は終わったの。それに今日は色々あって学校には行けそうにないしさ」

 サボタージュと言われたらそうなのだが、リシアは興味のない講義にはあまり出ない。

 興味のある数学、化学や生物学は必ず欠かさず、場合によっては物理学や工学などの講義は出ている。基本は理数科目が多い。
 他は気分次第で、単位を取るために顔を出す程度だ。先生に、いい意味でも悪い意味でも目を付けられるもなんとか進級した。

「そーかいそーかい。色々あったのか」

 おっさんは言い訳にしか捉えてないだろう。もっとも、言い訳でしかないのだが。
 色とりどりの野菜や果物が並ぶ食料屋に近づき、リシアは尋ねた。

「それよりおっさん。この辺で髪の長い白髪の少年見なかった?年は俺より上っぽいんだが」
「白髪の少年?誰だいそれ。リシアちゃんの王子様とか?」

 一気に寒気と吐き気がリシアを襲う。

「そういう乙女表現止めてくれない!?特におっさんみたいな中年男性が言うのは気持ち悪い!」
「ひどいよリシアちゃん!」

 リシア『ちゃん』というのも実は気に入らない。だが何度言ってもこの店主は直す気は無く、面白がって言うので諦めた。

「とにかく、知ってんの?知っらねぇの?」

 リシアは荒々しく言う。軽く、ドスが入った。中年の店主も苦笑いを浮かべながら言う。

「ちょ、怖い怖いって…悪いけど知らない……!?」

 突然、言葉が途切れた。店に綺麗に並べられた果物を乱暴に手に取り、走って行く者がいた。

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