本編

□玉座と粒子
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 翡翠の髪を翻し、一丁の銃を抜く。すぐさま脳がその銃に向かって力を送るよう命令する。
 するとたちまち銃は淡い緑色を放ち、それを合図に彼女は引き金を引く。撃つ。何度も。

 だが狙った敵には当たらない。銃口から放たれた弾の速度は、普通の人は避けられない。
 涙の神託者(オルクル)でも、術でも使わなければ銃弾など見える筈がない。その様子はない。それなのに、あろうことか彼は全て避けている。

「―――何故!?」
「そう言われましても…『視える』物は見えますから」

 侵入者の青年はそう言いながら左手で円を描く。その軌跡から天使の輪のような円状のものが現れ、翡翠の髪の少女に向かって投げつけた。
 それを転がって避け、もう一丁の銃を抜き、今度は両手に力が行くように脳が指令する。

 魔力(ルナート)が充填し終わらなくても撃つ。両方の手で絶え間なく、撃つ。

 別に銃の扱いが下手な訳ではない。それこそきちんと訓練を受け、戦地でも足を引っ張らないほどの腕だ。

 そのくらい、あるはずなのだ。

 それでも下手な鉄砲、撃っちゃ当たる。
 球数を多くしたことで敵も避けきれなかったのだろう。弾は左肩と右足をかすめ、腹部と胸を貫通した。

 確かに貫通したはずだった。

 だがその男は穴のあいた服で悠然と立ち、微笑んでいる。血すら出ていない。

「―――!?」

 涙の神託者は確かに怪我は人より数倍の早さで治る。一日、人によっては一時間で完治出来るだろう。
 だが一瞬で、というのは聞いたことがない。
 もしかしたら、自分に回復術をかけたのかもしれないがそれはあまりにも早すぎる詠唱だ。

「驚きましたか?それはそれは驚きますよね」
「――…あなたは本当に涙の神託者なんですか?その力、まるで…化け物のようです」

 男はクスリと笑う。

「なら、化け物は化け物らしい姿で早急に事を終わらせるとしましょうか」

 そう言うと彼は右手の指を鳴らす。
わたしの目の前に異形で、純白で、赤目の天使が現れた。

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