本編

□愚か者こそ旅させよ
1ページ/11ページ


 とにかく、俺は奴を追いかける。
 そう、長い白髪の髪を揺らしてシロガネが言ったのがおよそ一時間前。

 恒星ヘメラが西のトーラ山脈に沈みかけている。そのオレンジ色の光を受けて衛星のニクスが同じく西の空に丸く輝く風景はこの世界、アールマティでは当たり前のことだ。
 ニクスはまるで北極星のように、空の固定された位置から動かない。そういえばメタトロニオス王国ではない、別の古代国家にはこんな昔話があるというのを聞いた。


 ヘメラはニクスと表裏一体をなす存在で、かつては世界の西の果ての地下に館を共有していた。
 ニクスが世界を巡って夜をもたらしている間はヘメラがその館に待機し、ヘメラが世界を巡って昼をもたらしている間は、ニクスがそこに待機する。
 そのため、二人が共に館にいるのは、昼と夜の境目の一瞬だけであるとされた。

 だがある男がヘメラに惚れ、共に駆け落ちした。
 ニクスはヘメラが居なくなったその館に一人居続け、やがて西の空だけを暗い闇に包み、世界を巡るヘメラの存在すらも隠した。

 そのため、ヘハロト大陸から西に位置するオルフィス教の聖地オリエルは今もヘメラの光が当たらず、ニクスだけが輝く地なのだと言われている。


 これはメタトロニオス王国が統治するヘハロト大陸側から見た話だ。サダルフォン連邦国のあるゾハール大陸から見るとニクスは東にあるらしい。
 そのためニクスは丁度、聖地オリエルのはるか上空に位置しアールマティが自転するスピードに合わせて公転しているのではないかという説があると禿げた頭の教授は話した。

 そう思ってニクスを見上げると、ユーキが連れ攫われた場所があの真下にあるのかと焦燥に駆られた。


_
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ