本編

□山光水色の森
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 アルム平地は高く険しいトーラー山脈と低いアマダット山脈に囲まれた位置にある。自然豊かで、土壌の肥えたその土地は植物を司る神の名をもじって付けられた。
 近くに世界最大の湖タート湖に注ぐ穏やかだが広大なタート川に接し、アルムの最大の難関であった移動手段も、川を使って解消された。

 アルムは世界アールマティで最もと言って良いほどの食料生産地で、その食料は世界中を駆け巡る。
 乾燥の厳しいサダルフォン連邦国の首都エリヤでもアルムの名を見かけない事はないという話だ。

 そんな農村アルムに徒歩で向かうには、低い山々の連なるアマダット山脈を越えなければならない。
 特に高度の低い、木々の生い茂った所をアマダットの森と呼び、リシアたちはそれを越えることにした。

 昼間、軍の飛竜が水上都市ハルワタートに向かったのを見てから方向転換し、北西の方角に衛星ニクスが赤く照らされる頃にはアマダットの森に入ることが出来た。

 アマダットの森は足場がぬかるんでいたり、木々が道を塞いでいたりと、大勢の人が通るのには適さない場所なのだと改めて実感した。

「何でわざわざタート川を使って移動するんだ、とは思ってたんだが…こんなに道が整備されていないなんてな」
「大きな荷物を運ぶには適さないだろうな。水辺が近くにあるからか、足はとられるだろうし、ここの植物の成長速度も早いって話だ」

 シロガネは答えると、また槍を片手に歩き出した。
 植物を切って道をつくる為なのだが、シロガネの槍の振り方がとてもおぼつかない。初めて槍を握った人のような使い方だ。

「お前、その武器に慣れてないよな。なんでまた、しかも片手で使おうと思ったんだよ」
「そりゃ普段は両手で扱ってるって!しかも利き手じゃない左手なんだから、無理もあんだろ」

 シロガネが言うと、リシアは驚きながら言う。

「え、お前右利きだったの!?ずっと左手しか使ったとこしか見てこなかったからてっきり左利きなもんだと…」
「ちょっと右腕が故障しててな。どうやっても治せなくて、仕方ないから左手使ってるんだ」
「成る程」

 リシアは頷く。怪我してては動かすのも辛いだろう。

 しかし、このままでは実戦でも遅れをとるのは確かだ。
 思い出すのは、城に潜入したときの魔粒子生命体(ルパーティクル)との戦いの時だ。シロガネは敵に攻撃を与えられたものの、うまくバランスがとれず、転んでしまっていた。

 あの時は間抜けな奴、位にしか思わなかったが扱い慣れてない武器ほど危険な物はない。

「シロガネ、ちょっとそれ貸してくれ」
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