本編

□擬人に心、暗に鬼
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「なあなあお前は何でここに来たんだ!?」

 青い目を輝かせて少年は言う。水をかけて、頭を下げなければ気にもしていないようだ。

「旅の途中で水が無くなって…それで汲みに来たんだ」
「なら、俺たちの出番だな。生水は時間が経つと悪くなるし、腹壊すこともあるんだし…手伝うよ」

 と、金の目の少年は言う。その通りだ。美しいくても流れのない所に長時間おけば微生物が繁殖し、味も悪くなる。水樽業者はそれを理解し、水の煮沸をしてから各家庭に水を配る。
 お言葉に甘えて、とリシアは青い髪の少年にシロガネの水樽を差し出す。

「あ、これ魔裂器ってやつ!?久しぶりに見たなぁ」

 少年は水樽業者をやっているだけあって、差し出した水樽の底の魔力石(セレークレスタ)を見てすぐに理解した。

「魔裂器ぃ?」
「ほら、機械みたいなやつ。多分これだと水を圧縮して普通の水樽の倍以上は入れられると思うぜ」

 そういうと少年は取り付けたままだった蛇口を外しながら馬車に向かい、何か作業を始めた。

「最後の仕事、俺様にやらせろよー!こいつに俺様がスゴい所を見せてやるんだから!!」
「えぇーあんまり見せびらかせるようなもんじゃないじゃん」
「なんだよー俺様に逆らう気かー!?」

 オーウェルも一人称が俺様だが、この金髪の少年の俺様は歳に見合った子供らしさがあって微笑ましい。いつだって自分が一番、子供の頃なら思えた事だ。

 作業を終えて青髪の少年が戻ると、両手で持った水樽を金髪の少年に渡した。水が圧縮して入っているため、質量は見た目より重いのだろう。水樽は金髪の少年の手から滑り落ち、泉の底に沈んだ。

「ほら、重いだろ?」
「うーうー!お前持てよぉー!!」
「そしたら俺がやった方早いじゃん」
「うるさーいうるさーい!もう勝手にしろー!!」

 と金髪の少年はリシアと青髪の少年に向けて、水面を二度三度叩いて水しぶきを飛ばした。そして大股で馬車の方に水の中を歩いていった。

「あーごめんねえ。あいつ我が儘だから…」
「まあ、見れば分かる」

 リシアはかけられた水を払いながら言う。少年は底に沈んだ水樽を持ち上げた。
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