本編

□パンを分け与えよ
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 農村アルム。タート川のそばに立地し、豊かな土壌から豊富な作物が作られている。
 そのためだろう、首都エノクからは考えられないような土と埃の混じった臭いが鼻を通り喉を刺激する。

 リシアは顔を上げ、そびえ立つマバルアの樹を見上げる。千年樹の別名にふさわしく、歴史を感じさせるその巨木は村と共に成長し、何百年と見守ってきたのだろう。

 ふと、カルスをどこまで見送ろうかと村の入り口で考える。ご両親に会うのは気恥ずかしいと言うべきか、申し訳ないと言うべきか、なんとなく気が進まない。
 だが、ここでお別れしないで、という雰囲気をカルスは出している。どうしたものか。

「で、カルス。アルバはどこにいるんだ?」

 シロガネは単刀直入に言う。カルスはリシアの陰から現れるようにして指を指す。

「マバルアの…近く。あの、一緒に」
「俺たち村の外から来たやつが一緒じゃ変に見られるだけだろ」

 シロガネが歩き出す。確かに、一晩明け見慣れない人物が側にいては不信に思われるだろう。だが、そこまで突き放すのはやはりカルスに怒りがあるからだろうか。
 カルスがリシアの脚にしがみつく。申し訳ない、とリシアは両手を合わせて頭を下げる。渋々カルスは手を離す。

「あの、アルバさんの家から小川を挟んでだけど、対岸に僕の家があるから…」

 後から来てね、と小声で言うとカルスは走り去ってしまった。

 後味が悪い。
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