本編
□大地と生きる村
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ふと、風が吹いた。村を一望できる丘の上で、膨大な年月を経た巨木は揺られ、手放すように花弁が舞う。ヘメラの輝きを受けながらマバルアの花弁は、アルムの村中に、中にはそれよりも遠くに、気まぐれな空気と共に流れていく。
リシアはその感嘆と悠大さに一つ息を吐く。
「なんだこれ…」
率直なリシアの感想である。自然がつくりだした神秘、とでも言えるのだろうか。
アマダットの森でみた泉の時もそうだが、エノクに住んでいたときには想像の出来ない光景の連続だ。
「あーもう、チカチカして頭痛くなってくる」
「お前からの提案だったろ、マバルア見に行こうっていうのは」
「そりゃそうだけどよ」
右腕が風に揺られながら、シロガネは微動だにしない巨漢な木に近づいていく。
「以前はもっと、こう、大人しいっていうかなんつーか…」
「大人しい?」
あぁ、とシロガネは頷く。
「千年樹は魔力(ルナート)を放出しているんだが」
「はぁ!?植物だろ、これ!本当にそんな涙の神託者(オルクル)みたいなことやってんのかよ!?」
「やってる」
シロガネは再び頷く。シロガネが先程から何度も『目がチカチカする』というのは、やはり魔力の影響であったのだろう。だが、やはり俄に信じがたい。
「どんなメカニズムなんだよ、千年樹は」
「さぁな。ただ」
シロガネが左の人差し指を巨木の真ん中に向かって指し、続けて言う。
「『核』がある」
「核?」
「他よりも突出的に魔力の濃いポイントだ」
説明になってない、とリシアは吐き捨てると、何かのヒントになるかなって思ったんだよ、とシロガネが少し不機嫌そうに言う。
少々ムキになりすぎたかも知れない。リシアはすまん、と言った後でまた続けた。
「で、以前は大人しかったっていうのは?」
「その言葉の通りだ。こんなにも無茶苦茶に魔力出してなかったし…というか、花弁が小さくて、そして多すぎる気がするんだ」