本編

□大地と生きる村
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 カルスと別れた後、プラストの自宅へ向かいリシアとシロガネは食事をした。
 そういえばシロガネが食事をしている時というのは、自分が数少ない材料で作った料理を食べる姿しか見たことがなかった、とリシアは痛感した。

 余るだろうと思われるほど豪勢に盛られた色とりどりの食事たちは、次々とシロガネの口の中に放り込まれていく。まるで食べ物たちが空気のようだ。肺を膨らませれば容易く空気が体内に入るように、シロガネが頬を膨らませれば容易く食べ物が入っていく。

 そんな光景を、リシアは果汁のみで出来た飲み物をちみちみと飲みながら見ていた。
 プラスト夫妻から無理無理食べろと渡されるも、空腹を感じないリシアにとっては気の進まないことだ。

「リシアちゃんは少食なのねぇ」

 と、言われた。そもそも涙の神託者は食事を必要としないんだ、と思いながらも、そうかも知れませんね、と答える。

 プラスト宅を出ると、すっかりニクスだけが闇夜を照らし、自分たちの行く先を示す。
 夜にアルムを出発すれば、ヘメラが南中になる前にはハルワタートには着くという話だ。

「でもやっぱ時間はかかるんだな。流石は世界最大湖のタート湖」

 もう少しゆっくりしていきたいという気はあるものの、時間は自分たちの気付かないうちに進んでいく。
 ふとユーキを思い出す度、感じないでいようとした黒い何かが心の中で顔を出す。心臓の音が耳に響く。

「俺たちはお手伝いがてらに乗せてってもらうんだ。それも忘れるなよ」

 と、シロガネは言う。それに頷くと川辺を歩き出した。
 この村は、とても水を大事にしている。占領することなく、皆平等に川の水を畑に与えている。これがこの村の文化なのだろうか。それとも、性格なのだろうか。

 自然と共にする、ということは涙の神託者よりも長い時間を共にする。そんな感覚だと、リシアは思った。

 村の端のため池に、水上都市ハルワタートに作物を送る小型の船があり、それを目指した。その途中、丁度先程カルスと再会した地点で赤い軍服姿の人影が何人か見えた。

「…宗教軍」

 シロガネが、嫌悪と共に口に出す。リシアは目を凝らすと、確かに赤い軍服の中に所々青いラインの線や模様が見えた。

「本当だ。何でまた」
「さっきのオーキって奴の術が爆発的だったからな…それの調査か、または」

 感づかれているか、とシロガネは小さく言う。
 宗教軍というと、オルフィス教に関わるメタトロニオス王国軍の一派だ。ユーキのことで、リシアたちを追ってきている可能性は捨てきれない。

「さっさと行った方がいいかもな」
「そうかもな。ただ、少し時間いいか?」
「お前が無謀にもあいつらに突っかかりにいかなければ、いいぜ」

 しない、とシロガネが明確にいうのを聞き、リシアは了承の意を示した。
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