本編

□大地と生きる村
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『……第三番分隊、報告する。魔力痕跡有り』
『テンスを確認。涙の神託者のものかと』
『一部にシックスを確認。別の涙の神託者の可能性を』

 木陰に隠れながら、リシアは本来ならば届くはずのない声を聞く。シロガネが『音』の属性を使い、盗み聞いて情報を得ようとしていたそうだ。

「宗教軍って魔力解析機器か何か持ってるんじゃないか?本当に魔力使って大丈夫なのか?」

 と再三とシロガネに聞いたが、全て大丈夫だ、としか答えなかった。実際、気付かれていないようだが、流れ落ちる汗と、存在を打ち鳴らすように心臓の音がとめどない。
 『シックス』というのは、恐らくシロガネの使った『風』の属性のナンバリングだろう。胸の奥からどっと心臓が飲み込まれる感覚に襲われる。

「もういいだろ…」

 シロガネに言うも、聞く耳持たず。思わず出た泣き言も、こうもあっさりかわされてしまうのだから、先程の了承の意を取り消したい一心だ。
 こんな吐き気と緊張感をずっと続けるくらいなら、相手を襲撃しに行ってた方がまだ心持ち穏やかだったかも知れない、と思うほど。

『御苦労。メタトロニオス王国宗教軍第三番隊第三分隊の諸君』

 聞き覚えのある声に、リシアは思わず振り返る。

『私はオーウェル・ジード・デキウス。彼の者の手がかりがこちらにあると考える。御協力を願いたい』
「な、な、なっ」

 リシアの開いた口をシロガネが片手で塞ぐ。落ち着け、という一言でリシアは我に返り、一つ深呼吸をする。
 よく見れば、あの首都巡回部隊第五隊隊員の三人が影に見える。

「追ってきてたんだな、あいつら…」
「巡り会わなかったのが、まだ運がいい」

 シロガネはそういうと、手を離し、宙に浮かぶ陣に手をかざし、一文付け加えた。

『彼の者とは、どなたでしょうか?』
『彼の者は、王国の重要機密を知り、逃走した者であり、即刻な処罰を与えなければならないのです』

 オーウェルが凛々しく答える。いつもの相手を見下したオーウェルはそこにはいない。

「しょ、処罰か…」

 これは本当に学校に通えなくなる可能性もある。リシアは肩を落とした。その横でシロガネは微笑みながら言う。

「なぁに。でも、いいことは聞けたぜ」
「何を」
「王女誘拐事件を、王国の機密情報って扱いにしてやがる」

 その言葉に、リシアはハッとした。確かに、本当ならもっと騒いでもいいはずだ。
 それこそ、国の一大事でもあろう。それが、機密、だ。つまり、公にはなっていない。だが、何をそこまで機密にする必要があるのだろうか。

「なあ。あいつら、犯人は知ってないんだよな」
「だとは思うが。さて、どうだろうな」

 陰にはかる何かに、触れてしまったような気がした。
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