本編
□水上都市
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「うちのが輸入品の魔裂器小型船でも、オリエルまでじゃ途中で魔力が尽きちゃうしなぁ…やっぱ海竜がいないと」
マルスが言う。空路を担うのが飛ぶ竜であれば、海路を担うのは泳ぐ竜、海竜である。
短距離の小型船ではサダルフォン連邦国からの輸入品である魔裂器も多くなっているらしいが、遠距離の大型船はコスト的にも、技術的にも海竜を引いて船を動かす方がいいらしい。
「あまり時間はないんだ。もう一回くらい交渉してみる」
と、シロガネは言う。こういう時、旅慣れ人慣れしている人がいるとありがたい。リシアでは一回で折れてしまいそうだ。マルスは、そっか、というと続けて言う。
「俺はもう帰る準備しちゃうから、もし戻る時はこの時間帯にでも話しかけてよ」
ありがとうございます、とリシアは告げると、マルスは、たくましい腕を大きく振って別れの挨拶をした。リシアも、それにつられて遠慮がちに小さく手を振る。
マルスと別れた後、少し時間をおいてから交渉する、とシロガネは言うのでとりあえず港から市街地へ入る。まさしく水上都市、と呼ぶに相応しい都だろう。
土の地面の代わりに、術により形成された床は、都が水に浮くための浮力と、支えるための斥力を作り出している。
よく目を凝らせば板の中の魔力が複雑に、それでいて規則正しく電流のように流れていくのが見える。
魔力が半ば術化しており、つまりは具体的な力として現れているため見えると言われる。それほど高エネルギーの術なのだ。
普段全く見ることの出来ない魔力の動きに、リシアは目を見開いて胸沸き立つ想いでいた。
一方でシロガネが目頭を抑えて一つ息を吐く。アルムの時もそうだったが、魔力が視えると言うことは、このハルワタートの術全体も見えてることになるのだろうか。
どう見えているのか分からないが、風景と魔力が混在する空間で、どちらか一方を見たいときうまく見れないというのは辛いのではないかと考える。
「…大丈夫か?」
返答に困る言葉だった、と言ってからリシアは思った。案の定、シロガネは大丈夫だ、と返す。大丈夫、という言葉はもはや何の意味もなさない。
「アルムの時より、やっぱり辛いものなのか?」
「…まあ、そうだな。ここは魔晶器の発展のすごいし…せめて調節とか出来ればいいんだけど」
「調節?」
「しぼりみたいな」
「あぁ、魔力を視る、ので。出来ないのか」
「出来ないんだよ、これが」
またシロガネは溜め息をつく。