本編
□女神の道標
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「いやぁ助かりました…が」
金髪の青年は胴に巻き付けられた縄を再度確認し、くだけた笑みを浮かべてまた言う。
「こ、これはどういう事でしょうか…?」
「ホントホント、むしろこんな所で会えると思ってなかったですよアルバさーん」
締めた縄の一方を引っ張りながらリシアは言った。彼は、そうですか、と納得は言ってないような返事をする。シロガネが続けて言う。
「こっちも色々聞きたいことがあってなぁクソアルバ」
「私も色々と聞きたいことがあるのですが…特にこの状況」
引っ張っていた縄が緩まるのを感じ、リシアは手を止める。胴に巻かれていた縄ははらりと地面に落ちる。青年を見ると手には短刀があり、それを手の中でくるりと回すと彼は言った。
「もう少し明るく広い所で、落ち着いてお話しましょう?」
その微笑みは、やはりあの時のアルバと同一人物であることを確信するようなものであった。
リシアはシロガネと目を合わせると、仕方ない、と言わんばかりに来た道を引き返していった。リシアもそれに続くと、青年もついてきてくれた。
「なぁ…アルバさんだよな、アレ」
「魔力も一致してる。最初見たとき、まさかとは思ったんだが…」
「まさかだったな」
リシアとシロガネが極力小さな声で話す。シロガネが慎重に、と言ったのはこのことだったのか。
先程の分岐点に着くと、シロガネが術を解き、先程いた道がまた暗闇に包まれた。
「おや?こちらの道はあなた方の術ではないのですか?」
「そうだな。勝手に点いた」
「正確に言えばお前がパネルをハッキングして点けたな」
シロガネの言葉にリシアは付け足しで言った。恐らく、正しい道であることを金髪の青年に言うとそうでしたかね、となにやら疑問符を付けた言い方をした。リシアは言う。
「で、その……アルバさん、でよろしいんですよね?」
「えぇ。よくご存じで」
アルバは答える。アルバはあの時の白い聖職者の服とは違い、長く黒いマフラーを緩く巻き、遠位になるにつれて広がる、反比例のグラフのような弧を描くように長い袖の黄色い上着を着ている。
聖職者の部分は失われているが、黄金、という言葉そのものであるように感じる。
「なぜ、あんなところに…」
「外に出ようとしたら、穴に気づかずに落ちてしまい…あなた方が来るまで、かれこれ数日は経ってたかもしれませんね」
それは、体感としての数日なのか、実際の数日なのかはいささか不明瞭であった。だが、肝心な、なぜ「ここ」にいるという情報は聞けていない。
「リシア、前衛を頼む」
シロガネはそういうと、リシアに道を譲った。あんたも、とアルバをリシアの後ろをついて行くようにし、シロガネは後衛の位置についた。
「リシアさん」
そう呼ばれて振り向くと、アルバはくすりと笑った。
「ただ呼んでみただけです」
なんだそれ、と感じながらも前を向きなおした。そういえばアルバには、リシア、と呼ばれていると言ったことがなかったな、と思った。
幾らか歩くと、まるでボールの中に入ったかのような、背伸びも出来る高さで寝ころぶことも可能な空間に出た。
実際、屈みっぱなしだったシロガネとアルバは思いっきり背を伸ばした。一息つくと、リシアは辺りを見渡し言う。
「でも、行き止まりだな」
明かりはこのドームで終わっている。他にぽっかり空いた口も見当たらず、行き詰まった。
だが、そしたらなぜ行き止まりの道を行かせるような道なりを?まさか罠?そうリシアが考えていると、シロガネが壁の一カ所を注視しているのが見えた。
「シロガネ、どうした?」
そう聞いてもシロガネは白い髪を揺らし、首を傾げるだけだ。こちらも首が傾く。