本編
□女神の道標
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アルバは腰を下ろし息を吐く。ずっと大の字で穴の深くに落ちないよう耐えたり、背を曲げたままの姿勢だったのだから、疲れて当然だろう。リシアもアルバと向かい合うように座る。
「それで、リシアさんたちは私に何用でしたか?」
「ユーキハイゼ・ナッシュ・メタトロニオスの行方を知りたい」
そうリシアは言うとアルバはキョトンとした顔になる。
「随分長い名前ですね。ナッシュ・メタトロニオス…王族の、涙の初の方ですか?」
その顔つきに、リシアは内臓が熱く燃えるような気がした。
「えぇ、あなたが攫った王女ですよ!」
とぼけたり冗談を言うな、と言ってやりたい。だが、ここであまり喧嘩腰になるのは良くない。冷静に、大人しくそして虚偽を見極める。
「王女様…その方を、私が攫ったと?」
「黄金の聖職者アルバさん、あなたがユーキを連れて窓から逃げたのを、自分たちは見ています」
「……黄金の聖職者?」
アルバは腕組みをし、思い出すような仕草をした。数秒唸り、また口を開いた。
「それはいつ頃ですか?」
あっとリシアは感じた。内臓が赤く熱を持ったまま、急降下する。日数、しまった全然分からない。
学校に通ってた時はそんなことは全く感じなかったが、時間の決まらない生活に身をおくと、一体何日経過したのかが分からなくなる。シロガネに日数を聞いたときの現象が、今自分の身に起きている。そうリシアは思った。
まして涙の信託者は老いがない。そのせいで、時間の感覚も捨ててしまっていたのだろう。
リシアは苦し紛れに言う。
「数週間前…としか」
「うーむ、寝てたかもしれませんね」
アルバはなんとも曖昧なアリバイを言う。寝てた?
「確かに涙の信託者でも寝るは寝ますが…」
「あぁ、いえ、最近どうにもこうにも寝てばかりで…目覚めたのがここ数日前なんですよ。今回は何年寝てましたっけ…?」
リシアはポカンと口を開く。人類がそんなに寝れるわけないだろ。だが、それでリシアの頭に、ピンッと繋がるものがあった。
「アルムのアルバ!寝坊助アルバ!!」
「はい、そうですね」
少々引きつった笑みを浮かべてアルバは言う。寝坊助は余計だったようだ。シロガネもそれを聞き、言う。
「用事があってハルワタートに向かったっていう?」
「えぇ、そうです」
アルムの人々でも、一体何年生きているのかも分からない涙の信託者のアルバ。同名の別人だと思っていたのだが。
いや、本当に同一人物か?だが、ここまで偶然にそっくりな人もいないだろう。目の色を除いては。リシアは立ち上がり、シロガネに近付く。
「目に術がかけてあるか?」
小声でシロガネに尋ねるも、いや、という否定的な回答が返ってきた。
「同一人物だよな?」
「だと思ったんだが」
「目の色が違うそっくりさん?」
「魔力や使用属性まで同じだぞ」
「どういうことだ?」
「どういうことなんだ?」
ふと、カルスを思い出した。カルスは、リシアたちに会う前日に、アルバを見たという。
「アルバさん、カルスは覚えていますか?」
「えぇ、気弱な少年ですよね?」
「彼と会ったのは、起きてからいつ頃ですか?」
「えぇっと…始めにマルスさんと会って、それから始めて見る方と会って…それで色んな方が押し寄せてきて……あ、その時に顔を会わせたので、起きた当日ですね」
と、すると確かにユーキが攫われた時には寝ていたという。嘘を言っていなければ。嘘を言っていなければ、聖職者アルバと寝坊助アルバは別人であるということだ。
だが、そうとは思えないのだが。