本編
□古の叫び
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「…イントロンさんは邪魔者なんですか?」
アルバが笑いながら言う。どうやら、人名と勘違いしているらしいが、どういう経緯でつけられた名なのかはリシアもよくわからないのでそこは答えないでおく。
「エキソンも時々邪魔者扱いされるんですよ」
「どっちも邪魔者じゃねぇか」
青い羽で少し浮き、腰に手を当てながらシロガネが言う。まぁ知らないよなぁと気落ちしながら、リシアは答える。
「これ、生物学用語なんだよ。生命の暗号で、いざ使おうと暗号を取り出したとき、意味がある部分をエキソン。意味がなく、不要とされるところをイントロンっていうんだ」
「…なんだそれ。世の中意味のないものばっかだな」
両手で呆れた、と示したシロガネが言う。黒い目で見据えたリシアが答える
「人間が生命維持、意思によって勝手に邪魔者って決めてるだけなんだよ。必要・不必要と決めつけてるだけ」
淡い光を放ちながら浮かぶ、無数の文字を指してリシアはさらに言う。
「きっと、イントロンは大昔に発信されて、今も俺たちに残ってる誰かの叫びなんだと思う」
「じゃあまさしく、この意味のない文字列はイントロンさんですね」
アルバが笑いながら言う。
「ここの文字列は、まさしく『叫んでいる』んですよ。文章としては確かに意味はありません」
けど、とアルバが続けて言う。
「『君は誰?』とか『僕は何?』とか『死にたくない』とか。そういうのがずーっと並んでいるんです」
「太古から続く恐怖の叫びだ」
「皆、無意識に考えてる無の叫び」
「そんなところです」
リシアは両手の差し指と中指だけをのばし、差し指を中指と離したりくっつけたりする動作をする。
「可哀想だけど、スプライシングしないとこちらが億劫だ」
「スプライシング?」
シロガネが言ってすぐまた何かの用語だと言うことに気づいて眉を顰めた。
「叫びを一時的に切り落とす」
リシアはそれに気付き、出来るだけ簡単な説明を心がけた。リシアはまた、言う。
「本当は誰もが思ってる事を見て見ぬふりをする」
「壁をつくって見えなくするみたいなのか」
「常に見てたら気が狂うからな」
では、とアルバが袖に手を入れながら、手を叩いた。乾いた音がする。
「シロガネさん。イントロンさんをスプライシングしてくださいよ」