本編
□古の叫び
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シロガネの顔が一瞬ポカンとした顔になるも、すぐに意味を理解し、突きだした左手をゆっくりと滑らせる。
「どの辺りだったか、覚えてねぇんだけど…」
「もっと下です」
下から上へ流れる文字列を眺めながらアルバは言う。
「アルバさんは、何で古代語が分かるんですか?」
「んー…生きてる年月の差ですかね」
リシアの問いに、アルバは誤魔化して答える。リシアの目にもそれは明確だ。最もらしい言い分ではあるが、答えではない。
しばらくすると、アルバは、そこです、と言う。シロガネも手の動きを止める。
「で、何だって?」
再度シロガネは宙にわずかに浮き、少しエビ反り気味になりながら言う。
「――これは私の記憶。私が繰り返す夢。偽人に植える種」
アルバが文字を注視しながら淡々と読み上げる。リシアはアルバの脇からその文字列を見るも、分かりそうで分からない。
だが、よく見ると少し長い一文が、他の文字より強く光を放っている。アルバの読んだ部分なのだろうか。
「――全ては『 無 』から生み出される魔力から始まる。魔力は互いにぶつかり、離れながら本質を携え、やがては現象へと変わりゆく。現象により世界は膨脹と縮小を繰り返す」
アルバは一息つき、また読み続けた。
「――誕生と消失を巡る世界は、『 無 』に多くの魔力を与え、魔力が増加すればするほど、世界はまた大きく広がった。これが、偽りの涙に刻む、第一の花弁である」
アルバが読んだ文章がより一層輝き、ブォンという風を切る音が過ぎる。アルバはそれに驚き、後ずさるも、何も起きないのを確かめてから両腕を袖の中にいれ、以上です、と告げる。
「こ、これだけ…ですか?」
リシアが言う。どうやら古代語は通常の単語よりも長い単語になるようで、アルバの読み上げた文章もそれなりの量であった。
だが、これほどの膨大な文章にも関わらず、読み上げられる文章はそれだけとは、呆気なさすぎる。
アルバは、これだけです、と言う。