本編
□無夢の死徒
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都市エノクのあるクシャスラ湾岸から南東にあるモーズ山脈は、ヘハロト大陸でも最も魔力石が豊富に採れる鉱山をいくつも有する。
丁度、都市エノクと水上都市ハルワタートの中間に位置し、二つの都市の開発に大きく携わったともいえるだろう。
多くは、アマダット山脈とモーズ山脈の間にある平地を陸路で行くのが当たり前で、リシアたちのように海側のルートを歩くことはない。今日もあの時も。
リシアはまたふと思いだし、ぎゅっと胃が捻り潰されそうな感覚になる。
ニクスだけとなった空を見上げ、左手のみに持っていた剣の柄を再び強く握る。
「適当に振り回してもブレなくなったな、シロガネ。なら、次は基本的な攻撃手段をやるぞ」
「はー…武器振り回すってこんなにキツいんだな……」
僅かなランプの光に照らされ、さながら仁王立ちをしながら槍をもう一度だけ横に振ると、シロガネは一息ついて言った。
片腕しかないシロガネは、元から身体のバランスが悪く、どうやったら槍に振り回されずに扱うかが最初の議題となっていた。
「間合いをとろうとして長く持つから、尚更重いんじゃないか?ま、とにかく、最初は『突き』をやろう。槍で突き刺す。簡単だろ?」
「そんなの実戦で使えるのかよ」
「おいおい、突きは槍の長所をいかせる攻撃だぞ」
リシアは、左手に持った剣を少し後ろに引き、突きだした。
「素早く相手を攻撃できる。確かに大きく振ったりするよりは攻撃範囲は狭いけど、無駄に体力を消費しないし、敵との間合いも広いままになる。よっぽど間合い詰められてなければの話だけど」
シロガネもリシアを真似て、槍を後方に引き、突きだした。初めはゆっくり、次第に早くしていく。
「腕が慣れたら身体全体を使って、突く」
リシアは先ほどと同様に剣を後ろに引くと、突き出すと同時に脚も前に出す。
「真ん中を狙わなくていい。リーチのある槍なんだから、足下狙ってしまえ」
「せこいなぁ」
「戦法と言え戦法と」
シロガネは槍を引くと、脚を思いっきり開いて斜め下に突きだした。まずまず、とリシアは頷くも、シロガネは一向にその姿勢をなおさない。
「…立ち直せないのか?」
「……悪い。今ここで脚を引こうとしたら絶対倒れる。ヘルプ!」
「加減を考えろ、加減を!」
もう一方の腕があれば勢いをつけて戻すことも出来ただろうが、無情にもシロガネの右腕は風にひらひらと舞うだけであった。
リシアは剣を腰につけた鞘に戻し、シロガネに駆け寄る。