本編

□無夢の死徒
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 ユーリエル王国の残した避難経路は、やはりあの時アルバが落ちたいた道で合っていた。あの落とし穴の先にもだいぶ歩くことになり、また迷路のように複雑に枝分かれしていたものの、アルバの指示通りに進んでいくと、外に出ることが出来た。

「知ってたんですか?ていうか、よく覚えられましたね」
「いや、というより…『気がする』って感じですかね」

 ヘメラがニクスの空へ消えゆく中、そうアルバは答え、その曖昧すぎる返答にリシアはひきつった笑みを浮かべるしかなかった。

 月の記録(セレーオルフィス)のあった所で一度休んだだけなので、シロガネもだがリシアもなかなか疲労感を感じていた。これ以上の進行は無理だろうと判断し、リシアたちはこの辺りで野宿をすることにした。

 薄暗く、視界不良で見えにくいが、崩れた柱や苔だらけの石道、原形をとどめない建築物が影で見え、確かに古き遺産、というのが分かる。

 チェイスが見たらさぞ喜んだだろう。
 リシアとシロガネは一夜を明かす準備に取りかかるとアルバはキョトンとした顔のまま立ったままであった。

「おい、なんか少しは手伝えよ」
「えっと…何を手伝えばよろしかったのかよく分からなかったもので」

 シロガネの言葉に、袖から両腕を出してお手上げ、という意をアルバは示す。

「旅とかしたことないんですか?」
「遠い距離を歩いたことはありますが、それも涙の信託者(オルクル)になってからなので、特に休まずに進んでしまいまして」
「何百年も生きてる癖して、経験不足ってなんだよそれ」
「怠け者なんですよ、私は」

 そういってアルバは笑うと、リシアもシロガネも苦笑いしか浮かばなかった。とりあえず折れた柱の上にアルバを座らせると、リシアとシロガネは手際よく準備を進める。

 リシアが辺りから拾い集めた石と木の枝で簡易なコンロを組み立てているとき、そういえばと言ってアルバに尋ねた。

「アルバさんは食事しなくても大丈夫ですか?」
「えぇ、そうですが…」

 どうしてそんなことを聞くのか、と言わんばかりに不思議そうな顔をするアルバに、リシアはシロガネを指差して言う。

涙の信託者(オルクル)なのに、やたら食うやつがいるもので」
「悪かったな」

 魔物を探知する術の詠唱を、わざわざ中断し、シロガネは応える。それに対してアルバは、ほう、と納得もしていないように首を傾げながら言う。
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