本編
□魔鉱山の異国人
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「あー畜生、宿だからベッドで寝れると思ったのに」
シロガネは、ブーツを脱ぎ、どっとソファに寝ころぶ。長い脚がリシアを蹴るので、仕方なくアルバの横に移動した。
対角線上にいるウィズが、わずかに動くのが見えた。一度こちらを、というよりシロガネを見る。
「おーい、珍しがられてるぞ」
リシアがからかうようにシロガネに言うと、うるせぇ、とだけ言って時空属性を使って毛布をとりだし、それにくるまった。
しばらくすると安らかな寝息が聞こえる。相変わらず早い。
ウィズが、信じられない物を見るような目で、といっても表情は変わらずに、何度かまばたきをする。
その後に、背伸びをし、濃い橙色の髪に手を当てると、ようやく口を開いた。
「…寝るのか」
「寝るんですよね」
「あぁ、寝ますね」
アルバとリシアは答える。
「いつもか」
「いつもです」
これはリシアが答える。
ウィズは短い言葉だけを言うと、考えるように顎に手を当て、またシロガネを見る。
「事前通告があれば、部屋の解放も可能だっただろう」
「あぁ、なるほど。寝ないからいいやって思ってたってことですか」
ウィズが小さく頷く。そうして頭に着けていたゴーグルを下げ、レンズの上部をいくつかいじると、機器の音が響く。
そしてシロガネを視ながら手では何かメモを取った。
ゴーグルを上げ、そのメモをジッと見る。そうしてそのメモを持って、無言のまま外に出て行った。
「……いいんですかね。彼、私たちの監視役だったのでは」
「だからこそ、この場から動かず、ジッとしてた方がいいでしょうね。無実の証明、しましょうよ」
リシアは本を開き、読み進める。アルバは腕を組んで天井を見つめる。静寂が辺りを包む。
しばらくすると、ウィズはメモを持ったまま帰ってくるが、こちらを一度見ただけで、あとは先程と同様に自分の作業に戻った。