本編
□チトセの燈
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「はぁ!!?」
口に入れるはずだったフォークの運動を止め、澄んだ青い目は驚愕に収縮し、まさしくリシア同様の反応を示した。
「い、一千年以上って…桁違いにも程あんだろ。えーっと、ティアが落ちたのが約二千年前だから…その半分だろ?」
説明をやめ、ティースプーンを黒い抽出液内で回しながら、片目でも分かるくらい不機嫌そうなリシアが言う。
「ニクス形成の説で出る星がテイアなのに、オルフィス教で落ちた星がティアって…なんかパクってるみたいで嫌な感じだよな」
「ほう、そうなのですか」
一つ、口を付けた嗜好品と同じ様な目のアルバが言う。
「ところで、ニクス形成の説とは何でしょうか?」
リシアはティースプーンから手を離し、呆れ顔でアルバを見る。だが、すぐに、あぁそうですよね、と言い直し、説明する。
「初代の予言の第一巻、第一章に記載されてる、学術的に有名な説です」
シロガネがサラダボールの中の野菜をフォークで集める。
「原始のアールマティに惑星が落ち、その破片が衛星…つまり、ニクスとなったと言われます」
一ヶ所に集まった鮮やかな緑色に、躊躇いなくフォークを落とす。
「そして、その落ちた星を、有史以前にあったと言われる神話からテイアと名付けた」
シロガネがそれを口に運ぶ。相変わらず興味なしの無視だ。
アルバは、理解したのかしてないのか分からないが、リシアの話にただ頷く。
「また、この説をジャイアント・インパクト説と呼びます」
最後の1つとなった赤く丸い実をフォークで突き刺そうとするも、当たりが悪かったのか、赤い実は飛びはね、隣のスープに着水する。
「テイアとの衝突によりアールマティは大きな中心核を持ち、また、ニクスはアールマティと類似した地質だと言われています」
「…しかし、それらは全て、オルフィス教の、いるのかいないのか不確かな教祖、初代の知恵だと言う教皇の言葉から」
客もまばらな定食屋で、突然横に現れた異国人が言う。それに驚いたリシアは片膝を上げ、木のテーブルに打ち付ける。