本編
□畏怖の神託者
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宿のロビーのソファーに戻ると、頭にゴーグルをつけたまま、未だに書き物をしていたウィズが目に入った。シロガネから部屋番号を聞くのを忘れていたのもあり、戻ってきたはいいものの、しばし途方にくれていたのだ。
ウィズは、名を呼ぶとすぐに反応したが、次には眉を潜めたような、困ったような表情を浮かべた。
「駄目だったか?」
やはりウィズも、状況を分かっているようであった。アルバは無言で頷くと、ウィズはソファーに埋もれるようにして背伸びをし、深いため息をついた。
そうしてまたリシアたちと向かい合うと、頭を垂れて言う。
「申し訳ない」
「ウィズさんが気に病むことはありません。巡り合わせですから」
アルバもまた、礼をしながら言う。
「お力添え、ありがとうございました」
「………」
ウィズが何かを言いたげに、そのアルバを見る。だが、何も言わずに、向かいのソファーに座るよう手で示した。リシアがソファーに座ると、ウィズは手のひら程度の箱を取りだし、中から茶色い棒状のものを手に取る。
煙草だろうか、と見るも、その棒状のものがウィズの口のなかでパキリと折れるのを見て、ようやく食べ物であることに気付く。
「メタトロニオス人には不評」
リシアが珍しそうに見ていたのに気付き、ウィズはその箱を差し出す。
不評、という言葉に苦笑いを浮かべながらも、興味から立ち上がり、その箱の中身を受けとる。
棒は、砂糖で固められたのか表面は艶やかで、甘い香りがした。相当甘いのだろうか、と警戒して口に含むも、その前に噛み砕けない。
口のなかでスクロースが溶けていくのを感じる。
噛めないのを諦め、暫く、口の中に留めて置いたが、ショ糖とは別の味が流れ込んで来た。リシアはすぐに棒を口から外し、手で口を覆い、咳き込んだ。
「ウッッッエ!!!はぁ!!???何これ!!???はぁ???!!」
「サダルフォンの菓子、シュガーソース」
「ソースっ!?はい!!???ソース??!!!」
リシアは舌に残る味がを確かめると、確かにソースのような、味の濃い感じがした。とはいえ、と眉を潜めて言う。
「…砂糖菓子に合うわけないじゃないですか……」
「定番はシュガーシュガー」
「ひったすら甘くてもそっちの方がいいです」