本編

□畏怖の神託者
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 駄目だな、それ。とシャワー音と共にシロガネの声がする。
 やたら澄んで聴こえるから、恐らく音の属性を使っているのだろう。

「襲った連中を取り入れて、どんどん規模をでかくしてる連中だ。仮に勝利まで持っていけても、海竜と船の損害は甚大になる」

 それに、とシロガネは続けて言う。

「襲ってくる連中が、全員とは限らない。第一陣を突破しても、第二陣、第三陣ってくるぜ」

 ウィズは同意を示してから言う。

「恐らく、ニールが自信を持っているのは、初の全属性の魔力石(セレークレスタ)から構成した魔粒子生命体(ルパーティクル)を作り出したからだろう」
「……馬車の時のあいつか」

 シロガネが一人、納得するも、どういうことかと、リシアは尋ねる。

「光の羽の…ザナミと名をつけたんだが、虹色の全属性の魔力石(セレークレスタ)により構成。魔粒子生命体(ルパーティクル)でも、綺麗な人型を保った自我魔生体(ルマイド)に分類される」

 坑道で、リシアとシロガネの背後に現れた彼らを思い出す。シロガネが天使化した時に現すような、光の羽の自我魔生体(ルマイド)

「ザナミの行動に異常はなく、また命令に忠実。能力も、他とは比べ物にならないほど強力」
「だからこそ、勝てると」
「事実、テロの時、ザナミの近くにいたニールとエスターはほぼ無傷。例が俺で悪いが、俺ではほとんど対処しようになかった状況だ」

 リシアは今一度、ウィズを見る。
 ウィズは、ハイレンス研究所の制服ともいえるのだろう、白衣にも似た七分丈のコートと、袖口がやや広めのシャツで、左腕の方ではそれらを捲り、褐色肌を露出させている。

 左利き、というわけではなく、術を行使するのが左手だからであろう。魔紋章(マラーク)が左腕に現れる限り、より効率のいい術行使には左手が好まれるためだ。

 その腕にも傷痕らしきものは見えない。再生し終えているのか、それとも、ウィズに怪我はなかったのか。その判別はつけられなかった。
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