本編

□天の涙
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「ちょっと変な感じしたので行って見たんですけど、大したことなかったみたいですぅ」

 濡れた服の水滴をとろうと何度か払うも、染み入った水は女性に不快感を与えるだけであった。

「裂けちゃった本質のと、私の象徴のをまちがえたんだとかぁ。軽くて透明度高いからって、それと間違えないでください、ですよねぇ」
「あらまぁ。あまり科学リテラシー高い人じゃなかったっぽいわね」

 一息ついて糸目の女性は顔を上げ、リシアに気付く。

「あれ?すみません、もしかして見えてますぅ?」
「え、むしろ見えないことってあるんですか?」

 リシアは背筋に寒気を覚える。いや、そんな非現実なこと認めるかと、首を振る。

「一体、何をしてたんですか?」
「んー…まぁ、私たちのお仕事ですぅ。ちゃーんと正しく使われてるのか、どうしてそれを使うのかとか、そういった調査をねぇ」
「物と人の間を取り持つんです」

 リシア問に、二人は答える。さて、と菫色の髪の女性が言う。

「そろそろ、おいとましますね」
「この雨の中で?」
「調査したら、提出しなきゃならない書類があるんですぅ。それもなかなか手厳しぃ…」

 糸目の女性が、肩を落として言う。リシアは、ちょっと待っててくださいと二人を止め、別空間の入口を開ける。確か、レシアから貰ったものの、好みじゃなくて使ってなかったものがあったはず。

 そうして探りってるうちに手に合うように曲線に曲がった柄が手に当たる。あった、と言って窓から手渡す。

「あら、可愛らしい傘」
「俺は使わないので、よければどうぞ。といっても、一つしか渡せませんが…」
「それはいいのよ。でも、本当にいいの?多分返せないわよ?」

 リシアは肯定の意を込めて頷く。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 そういって菫色の髪の女性が傘を手に取る。開かれた傘の小花柄は、レシアの好みだ。しかし、リシアに到底合うわけがない。

「見に行く前に、貴方に会っておけばよかったですぅ」

 二人がお礼を言った後、糸目の女性は、濡れた服を見ながら言う。

「こうならなくてよかったわぁ」
「あぁ、ひっどーいですぅ」
「冗談よ。でも、こういう間違いで顔を会わせるのも嫌ねぇ」

 黄色の女性は頬を膨らませて言う。

「ヨウ素さん、それ私に会うの嫌みたいに聞こえますよぉ」
「そうじゃないわよぉ。安定の分子結晶仲間でも、一緒に仕事することなんてないじゃない。今度はいい仕事で巡り会いましょ?硫黄さん」

 それじゃあ、と言って二人は弱くなってきた雨の中、去っていった。その背を見ながら、リシアは呟く。

「酸素と水素、ヨウ素に硫黄…偶然か……?」

 アマダットの森で出会った二人を思い出し、リシアは言う。どなたかいらしたんですか、と尋ねたアルバに、リシアは先程の二人を答える。

「結構離れてたんですかね…」
「いや、窓の横ですよ?」
「本当ですか?」

 アルバが困ったような笑みを浮かべる。

「声も聞こえなかったもので…」

 リシアは再び背凍った感覚がする。いや、そんなはずはない、と強く首を振った。
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